オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語

銀の騎士外伝-金の王子-

第2章~陰謀~

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(3)

動きやすい服に着替えて、狩りに使う弓矢を携えたセラムが、サンバールの待つ応接室にやって来た。得意そうな顔で、どうだと言わんばかりにくるりとまわる。長い髪は後ろで一つに束ねていた。

つくったばかりの新しい衣装に身を包み満足そうなセラムを、サンバールは眩し気に目を細めながらじっと見つめた。実際は、衣装などどうでもよいと感じるくらい、セラムは輝いている。品のある目鼻立ちだけでなく、髪をかきあげるといった、何でもない動作の一つ一つが高貴であり、ひれふしたい衝動に駆られる。

王がセラムを隠しておきたい気持ちもわからないでもない。
こんなに美しい者をひと目に触れさせるのは、極めて危険かもしれない。

「どうした、サンバール。私の格好が気に入らないのかい?」

オンライン小説 銀の騎士 セラム

突っ立ったままのサンバールに、セラムは小首をかしげた。

「いいえ、何でもありません。行きましょう。」
サンバールは役に立ちそうもない装飾だらけの金の弓をちらりと見ながら、出口へと向かった。
セラムに狐を狩る気はないのだろう。そう思うとなんとなく誇らしい気持ちになった。

森は清清しい香りに包まれていた。

馬に乗っていくほどの距離ではないが、どうせ狐など現われないとわかっていたので、サンバールはセラムを馬に乗せた。馬は犬と同様に人の気持ちを慰めてくれる。友のないセラムには、動物とのふれあいが大切だった。

少し駆けていくとすぐに木々は減っていき、見晴しのいい野原が見え隠れし始めた。膝より低い草花が一面に咲いている。白や薄い黄色の小さな花々は近くで見ると取るに足りないが、遠くに群生している様は美しかった。緩やかな風が小さな花を時折揺らしながら、セラムの髪をなでていった。

2人は馬を休め、一番近い木に手綱を結び付けた。
狐を狩りに来た事などすっかり忘れたように、セラムは足下の花を無造作に摘み取っては風に流した。背中にかけた弓矢は、セラムがしゃがんで草花を手にする度に、金属どうしが触れあう時の独特な甲高い音をたてた。

「狐はいいんですか? こんな見通しのよい野原には、いないと思いますよ。」
サンバールは、自分の質問はどうでもよい事だとわかっていた。
私の王子は気晴らしに来たのであって、狐狩りに来たわけではないのだ。

サンバールは本当は、狩りが大嫌いだった。貴族達が退屈しのぎの楽しみの為だけに、動物を殺める事が信じられなかった。しかし、その考えをセラムに押し付けるような真似は、決してしなかった。無理に押し付けずとも、通じていると思いたかったからかも知れない。

「狐はやめてウサギにするよ。」

素っ気無く答えたセラムは、まだ草花を弄んでいる。まるで野草を初めて見る子供のように、何度も何度もしゃがんでは草をちぎり、立ち上がると結んだ手の平をそっと開いた。すると草は風に飛ばされて、セラムの手から離れていった。

「何をしているのですか?」
サンバールは後ろに立ち、セラムの背中の弓矢が音をたてるのを見つめながら訊いた。

「摘み取った時の香りを楽しんでいるのだ。」

セラムは相変わらずサンバールに背を向けたままだ。
サンバールの背後には今駆けて来たばかりの森があり、2人の馬がつながれている。

セラムは草を摘むごとに一歩前へ出て森から、馬から、そしてサンバールから離れていく。それが嫌だったのだろうか。一瞬、森の切れ目で世界が割れたかのような錯角に陥って、サンバールはあわててセラムに近付いた。たった10歩足らずしか離れていなかったのに、どうしようもない不安に掻き立てられたのだ。森の中は光がさしていたのに薄暗く感じられ、草原の中のセラムは光に包まれていた。このまま光の中にセラムを残して、自分は暗闇に落ちていくような気がした。森に呑み込まれて……。

”私はこの方なしでは生きてゆけない、腑抜けた人間になってしまったようだ。”

サンバールは妄想を振払って苦笑した。

セラムはやっと草を摘むのをやめて、金の彫刻が施された美しい弓を手にとった。何か獲物を見つけたわけではない。セラムが弓を構えた先には空しかなかった。

この時、サンバールはすっかり物思いに気を取られ、まわりに注意を払っていなかった。目の前にはセラムがいて、そのまわりは一面の草原。セラムが視界の中にすっかり入っていて、何の危険も感じられなかった。いや、危険が存在するとすら予測していなかった。

ここは王宮の敷地内で、王族と主だった重臣である限られた貴族たちしか、中に入る事を許されていないのだ。生き物も危険のない小動物しかいない。サンバールが気を抜いていたとしても、誰も責める事は出来ないだろう。

しかし次の瞬間、サンバールはおぞましいほどの殺気を感じて森を振り返った。馬がすっかり落ち着きをなくしている事に、何故もっと早く気づかなかったのだろう……。

深い後悔の念がサンバールに襲いかかった。

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