第2章~陰謀~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
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聞きなれない妙な音がして、セラムは振り返った。
そこには、サンバールが背を向けて立っているだけだ。向こうには、バルボーン王宮裏の、美しい森が広がって見える。
「今の音……?」
何の音だと聞こうとして、セラムは言葉を呑み込んだ。
サンバールの顔がゆっくりとこちらを向いた。その表情は、微笑んでいるような、泣いているような、戸惑っているような、とにかく今までに一度も見た事ない顔だった。だから、それ以上声をかけられなくなった。
サンバールはもつれる足でセラムの方に身体を向け、一、二歩近付いた。
慈愛に満ちた微笑み。
何が起こったのか、理解する事は出来なかった。
サンバールはセラムに左手をのばした。
その手をとってやらなければと思った。しかし、動く事が出来ない。
目はサンバールに釘付けだった。こんなにも頼り無気だったろうか。
何でも出来て、誰よりも強いあのサンバールが。
サンバールの顔から目を逸らす事が出来ない。
サンバールが胸に抱えているものを見たいのに、どうしても見る事が出来ない。
サンバールが崩れ落ちるように膝を折った。
振動が伝わり、セラムはやっと微かに視線を動かす。
胸をおさえている右手の指の隙間から、紅い液体が流れ落ちる。サンバールの胸に深々と突き刺さった短剣の柄には、王家を示す彫刻が施されている。王族以外持っていないはずの短剣だ。
何が起こったのか、理解出来なかった。
理解したくなかった。
サンバールののばした左手が力なく垂れ下がり、まぶたが静かに閉じられていく。そしてそのまま、音もなく仰向けに倒れ、動かなくなった。
一瞬のようでもあり、永遠のようでもあった。
駆け寄ろうと思った。
声をかけたかった。
でも、咽が灼けただれたように熱くひきつって、声が出ない。
それどころか腕さえあがらない。
あんなに美しかった草原の緑がみるみるうちに枯れていく。
いつの間にか森は消え去り、空も地面もない真っ暗な空間に浮かんでいるようだ。
何もかもが色を失っているというのに、紅だけは、一層くっきりと浮かび上がった。
セラムの足下を紅い液体が迫って来た。
恐ろしかった。
逃げ出したかった。
夢だと思いたかった。
セラムの足は真っ赤に染まり、そのまま紅き海で溺れそうな気がした。
”海……? ああ、私は海など見た事がない。これは夢だ。”

まったく関係のない事を頭に浮かべようとした。
そうすれば目覚められると思った。しかし、紅き海は容赦なくセラムに迫って来る。
突然、バクバクという大きな音が鼓膜を切り裂いた。感情とは別の所で何の音だろうと冷静に考える自分がいる。聞き覚えがある音だ。それなのに思い出すまでにかなりの時間が要った。いや、実際は一瞬だったのかも知れない。
それは自分の心臓の音だった。
セラムの指から金細工の弓が滑り落ちる。足下に広がる紅き海に叩き付けられた弓のせいで、真っ赤な飛沫があがったのが見えた。それと同時に、セラムは狂おしく叫んだ。
叫びは森の中にこだまして、一斉に鳥が羽ばたいた。
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