オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語

銀の騎士外伝-金の王子-

第2章~陰謀~

オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語

(6)

サンバールを狙ったのは王家の紋章のついた短剣だった。第一王子と共に狩りに出かけたサンバールが、王家の紋章入りの短剣で胸を刺され、その隣で第一王子は気を失っていた。

これは何を意味するのだろう。

王宮に医者は5人いた。
侍医長のエリックは2名の同僚と2名の助手を総動員でサンバールの治療にあたっていた。

第一王子の絶叫に王宮の警備隊が駆け付けた時、気を失ってはいたが王子の命に別状はなかった。王子ではなくサンバールを狙った犯人とは一体誰だ。

そう考えた時一番に浮上したのは、誰も口にはしなかったが第一王子だった。王子がなんらかの理由でサンバールと口論になり、誤ってサンバールを傷つけてしまったのではないかという疑惑だった。

報告を受けた王もおそらく王子の仕業だと思ったからこそ、リニュアル家にサンバールの負傷を隠すよう命じたに違いない。表向きサンバールは、王命で首都テドンに行った事になっている。
サンバールは、セラムが思ったほどには出血していなかった。短剣が抜かれないままだったのが幸いだったのだ。しかし、おもわしい容態とは決して言えなかった。

出血は止まったもののサンバールの意識はまだ戻らず、第一王子も目を覚まさない。二人の間に何が起こったのかは、当人達に聞くしか知る術はない。

エリックは助手のスーリに時々第一王子の様子を見に行くよう指示していた。
王がサンバールに全力を尽くすよう命じていたので、自分はサンバールに付ききりだった。

リニュアル家は王宮の中で貴族としてもかなり古い名家であるにとどまらず、政治的にも重要な位置を占める家柄だ。このままサンバールが死ねば、第一王子と言えども罪は免れない。王の懸念はそこにある。何としてでもサンバールの命を助けよという命令は、すなわち王子を助けよという事なのだ。万が一サンバールが死ぬような事になれば、侍医団五名の運命もそれまでだ。

思考をやぶるけたたましい音に、エリックは眉をひそめた。廊下をバタバタと駆けて来る数名の足音の後で、サンバールを寝かせた王宮の特別医務室の扉が乱暴に開かれた。

「何ごとだ、ここは病人の部屋なのだ。静かにしないか。」

エリックは入って来たスーリを咎めるように言った。第一王子が目を覚ましたにしても、衝撃的な事実を聞いたにしても、医者はいつも冷静でなければならない。スーリはまだ若くそのへんのところが未熟だと、エリックは溜め息をついた。しかも、ここにサンバールが介抱されている事は重要機密だと言うのに、二名の侍女を従えている。

「侍医長、しかし。」

言いかけてスーリは、興奮して医者としてあるまじき態度をとってしまったと気づき、侍女達を下がらせた。

「すぐに行きますので、湯と清潔な布の用意をしておいて下さい。」

2人の侍女は頷いて、またバタバタと廊下を走り去った。
ただ事ならぬ雰囲気はエリックにも伝わった。
侍女が完全に姿を消すと、スーリは小声で慎重に言った。

「王子が、服毒しました。」
「何だって!?」

エリックはすぐさま立ち上がり医療鞄を持つと、サンバールに付いている三人の医者に後を託し、スーリと共に廊下を走った。

「毒の種類はわかっているか。」
走りながら小声でスーリに詳しい事を聞く。

「おそらくギドルだと思います。」
ギドルはこの地方に咲くすみれのような薄紫の花で、花を絞った汁が毒になるのは誰もが知っている事だ。効果は弱いが、誰にでも簡単に手に入れる事が出来る唯一の毒である。弱いと言っても量が多ければ死に至る。が、処置が早ければ解毒剤が利く筈だ。オンライン小説 銀の騎士 毒

「いつだ。」

エリックは誰が聞いているとも分からない廊下で、王子の名を出す事を控えた。侍女達の口は塞げないだろうが、いくらかでもうわさが広まるのを抑えなければならない。

「たった今です。」

エリックは頷き、それ以上は何も聞かなかった。王子の寝室に着いたからだ。 大勢の侍女達があたふたと行ったり来たりしているのを、全員下がるように言い付け、エリックは第一王子の様子を診た。

甘い香りがする。確かにギドルの香りだ。
エリックはすぐさま鞄から解毒剤を取り出し、王子の口に垂らした。

「水を。」

王子の身体を半分起こし、受け取った水を飲ませる。そして用意されていた湯に薬草を浸し、更に布に薬湯を含ませた。王子の気管に吸い込ませる為だ。エリックは片時も治療の手を休めない。

王子は何故服毒など。
やはりサンバールを刺してしまった事がショックだったのか。
それとも……。

エリックは王子を特別医務室に移すべきだと考えた。もし意識を取り戻しても、また何をしでかすか分からない。医者を分散させるより同じ場所に二人の病人を置いた方が遥かに効率がいい。

「侍医長。」
スーリが心配そうに覗き込む。

「大丈夫だ。お前の知らせが早かったので解毒剤が間に合ったよ。」
エリックはスーリの肩をポンとたたいた。

「今晩、王子を秘密裏に特別医務室へ移そうと思う。手伝ってくれ。」

スーリは大きく目を見開いて頷いた。

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