第3章~刺客~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
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次の日王宮に戻ったセラムは、縮こまって王子殿下に罰せられるのを待つ、四人の侍女と侍女頭のサーラに、とりたてて罰を申し付けなかった。だが、サーラは暇乞いをしてきた。結局、仕立て屋は見つからずじまいだった。
「君の遠縁の侍女はどうしたのだ?」
セラムが聞くと、サーラは平身低頭して誤るばかりだった。仕立て屋はサーラの名で呼ばれた事になっており、見知らぬ仕立て屋を王宮に入れた門兵も罪には問われなかった。仕立て屋はサーラからの書状を持っていたからである。しかし、鑑定してみれば筆跡はサーラのものではなかった。
実際暗殺の手が下された訳でもなく、誰をも罰せないまま、うやむやになろうとしている。その事に誰よりも一番サンバールが腹を立てていた。もう、セラムが怒る隙さえ与えないほど、サンバールの怒りは凄まじいものだった。
だが、今サーラを辞めさせたところで、次に来る侍女が信用出来ると、誰が言えるだろう。
サーラを辞めさせる訳にはいかなかったのだ。
危篤だったはずのサーラの母親は、あっという間に元気を取り戻し、これも何者かの陰謀としか思えなかった。
サーラは今日、遠縁の侍女に謝罪させると言って来た。セラムは面倒だからいいと言ったのだが、サンバールは彼女に詰問するつもりらしい。どうしても何か糸口をつかみたいと思っているのは、よくわかった。セラムも始めは侍女も暗殺者の仲間だと思っていたが、サーラの身元がはっきりしている以上、あからさまに馬鹿なまねはしないだろうと思われた。
サンバールと二人、難しい顔で考え込んでいると、ノックの音と共にサーラの恐縮し切った声が聞こえて来た。
「私の遠縁にあたりますセリスが謝罪にやって参りました。恐れ入りますが……」
「入れ。」
サーラに先を言わせず、サンバールが怖い顔で扉を睨み付けた。
尋問はサンバールに任せよう、そう思ってセラムは扉に背中を向けたのだった。
「失礼いたします。」
セラムは凍り付いた。
ゆっくりと振り返る。
そこにいたのは、昨日の侍女ではなかった。はじめて見る顔だったのだ。
では、あの時の侍女は誰だったのだ。
セリスは震え上がっていた。
ただでさえ恐ろしいのに、入って来るなり大きな身体の男に睨み付けられ、泣き出しそうなか細い声になっていた。
「も、申し訳ございませんでした。」
「私が誰にも会いたくないと言ったそうだな。誰に聞いたのだ。私は君に会った覚えはないが。」
セラムの冷ややかな問いに、サンバールは眉をひそめた。
「なんですって!?」
侍女はますます身体をかたくして震え上がった。
「私が朝の支度をしております間に、メモが置いてあったのです。王子殿下は御機嫌が麗しくなく、寝室におこもりなので、決して声をかけないように扉の前にいるよう指示されていたのです。申し訳ございません。申し訳ございません。」
侍女は床に潜るつもりかと言うように、指を揃えて頭をこすりつけた。
「メモには他に何が書いてあったのだ?」
今度はサンバールが詰問した。
「それだけでございます。殿下がおこもりになると仕事がないので、他の侍女は全員別な場所へまわるから、誰か戻って来るまで部屋の前にいるようにと、書かれていただけでございます。申し訳ございません。」
「そのメモはどこへやったのだ?」
サンバールの、腹の底から響くような声を聞いたのは初めてだった。
「も、申し訳ございません。お許し下さいませ。」
「捨てたのだな?」
「どうかお許し下さいませ。」
「仕立て屋を見たか?」
「私はどなたにも御会いしておりません。リュニアル様がいらっしゃるまで、ずっと一人でおりました。殿下がいらっしゃると信じていました。申し訳ございません。お許し下さいませ。」
これ以上何か聞いても無駄だった。
セリスは侍女と仕立て屋に扮した暗殺者が逃げさった後にやって来たのに違いない。
「もういい。さがれ。」
サンバールが低い声でそう言うと、侍女は逃げるようにして出て言った。サンバールのこんな言葉遣いは、今まで聞いた事がなかった。怒りが目にあらわれていた。いつも冷静なサンバールとはまるで別人のようだった。
「敵はごく身近にいます。私の会議への召集は、夜も更けてから急に決まったものでした。その後朝までの間にこれだけの手回しが出来る者、財と権力を持った者、誰も信用出来ない。」
サンバールの言葉は最後は独り言のようになっていた。
”誰だ、誰なんだ!”
サンバールの目がそう言っている。
「一緒に来て下さい。」
「どこへ……」
セラムの問いに答えず、サンバールはずんずんと廊下に出た。慌てて付いていく。サンバールの横顔をちらりと盗み見ると、怒りと興奮で頬は上気していたが、目だけはゾッとするほど冷たかった。
特別医務室にノックもせずに入っていくと、エリックが慌てて立ち上がった。サンバールは、怪我でもしたのかと慌てるエリックに、
「王子殿下をしばらくかくまって欲しい。」
とだけ言った。昨日の夕方からの騒ぎは、大事にならないよう秘密裏に処理されたはずだったが、エリックの耳にもとうに届いていた。王宮とはそういうところだ。たくさんの貴族や使用人が出入りするこの建物の中では、いかなることも秘密にするのは難しい。
「サンバール、君はどこへ行くんだ。」
セラムは置いて行かれるとわかり、講議するように言った。
「近衛騎士団長に会いに行って来ます。あなたはここにいて下さい。私が一緒でない時は、片時もエリックと離れてはいけませんよ。いいですね。」
「それなら、ロレーヌの所へ……」
「絶対にいけません!」
なぜだと訊こうとしたが、その前にサンバールが怖い顔で言った。
「私の目の届かない場所には、絶対に行かないで下さい。」
あまりの勢いに気押されて何も言えないまま、セラムはサンバールの背中を見送った。
王に何度進言しても拉致があかないので、直接、近衛騎士団長に警備を願い出ようというのだろうか。エリックも、王には何度も王子の命が確かに狙われている事を報告している。それでも王は具体的に動こうとはしなかった。申し訳程度に見張りの強化を言い付けるだけで、徹底的に暗殺者をいぶり出そうとしているようには見えないのだ。
近衛騎士団は王の命令でしか動かない、王の為の騎士団である。しかし、セラムのいる王宮に出入り出来る騎士団は、近衛騎士団をおいて他にない。王が動くよう命令を出さない限り、近衛騎士団が動くとは思えなかった。
エリックはふと、王が暗殺者の存在を知っていて、見て見ぬふりをしているのではないかと考えてみた。そして、この恐ろしい考えを振払うように、首を横にふった。
”めったな事を考えるものではない。馬鹿な考えは捨てろ。”
そう言い聞かせながら……。
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