オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語

銀の騎士続編

第1章~予兆~

オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語

(1)

空が高い。

澄み切った空気が大きな流れを創っているように見えるのは、気のせいではないだろう。今朝がた脳裏をかすめた映像は、明け方のまどろみが見せた、ただの夢だろうか。それとも……。

鋭い視線を円い空に投げたカルテスは、難しい顔つきで一点を見つめ続けた。そうする事で集中力が高められ、未来がちらりと垣間見える事があるからだ。いつも見えるという訳ではない。見えない時の方が多いとも言える。しかし今は見つめずにはいられなかった。

白髪混じりの栗色の髪が、優しく揺れて額に刻まれたしわを撫でていく。
ロレーヌ王宮の薬師としてこの国にやってきたのは、三十年以上前の事だ。その間大きな戦いもなく、ずっと平和だった。

城の外を徘徊する魔物の被害も、ハンター達の活躍によって国を危機に陥れる程の大事に至った事はない。他国では全滅した村もあると聞くが、カルテスの知る限りロレーヌ国内の村々からそのような報告はない。城の騎士達に、救助要請が出た事すら一度もないのだ。

ロールの魔法学校で、魔物の出現が世界を破滅に導くかも知れないと習ったのは、遠い昔の事だ。しかし現実は、魔物との共存すら可能ではないかと思える程、ロレーヌにとって魔物は有用だった。少なくともカルテスはそう思っている。

魔物がもたらす光る石は、農業で暮らしていた貧しい民を救った。職のなかった殆どの若者が、ハンターという新しい希望を選びとり、家族の養い手となった。

「カルテス。どうした? 難しい顔をして」

明るく力強い呼び掛けに集中を遮られ、カルテスは振り向いた。

「王子……」
「こんなに良い天気なのに、なぜ空を睨み付けているのだ。」

ロレーヌの王子は白い歯をみせて爽やかに笑った。
憂いのない笑顔だ。

”この国が平和なのは、王が平和を好む穏やかな方だからかも知れない。そして、世継ぎの王子も王に瓜二つだ。”

カルテスは王子に優しい笑みを送りながら、黙って佇んでいる。

「何か憂いごとがあったのか」
心配そうに覗き込む王子に、カルテスは安堵を覚えた。
危機感が全くない。

こんなに穏やかな気持ちで三十年を過ごせたのは、この城の雰囲気のせいだ。
王のお人柄と、王子の優しさ。

この暖かい空気に甘えて、何もせずに三十年を過ごしてきた。しかし今、何かが変わろうとしている今、自分だけがぬるま湯に浸かって逃げているわけにはいかない。

カルテスは踏ん切りをつけるように大きく息を吸い込んだ。

「先読みの力が発現致しました。後ほどお伝え致しましょう。王にも御報告をせねば」

カルテスはそれだけ言うと、一礼をしてその場を後にした。

「遥か古の時代、銀の騎士によって封じられたという悪しき力と思しき気配が、僅かながら大気中にただよってございます。そして、われらが精霊様のお力が、弱々しく感じられます。何か起こった事は間違いないでしょう。しかし、残念ながらそれが良い結果を生むとは暗示されておりません」

カルテスの言葉に王の穏やかな表情が一瞬曇った。

先読みの力を伝えるための聖なる間には、ロレーヌ王と王妃、世継ぎの第一王子、そして主だった重臣達が集まっていた。カルテスが薬師になってから実に初めての儀式である。

重臣達は聖なる間の存在すらも忘れ去っていたかのように、訝しむような視線をカルテスに送った。一体何ごとなのだ、とでも言いたげに。

聖なる間の高い天井は、カルテスの低い声を神憑かりに響かせる。

”まるで世界の終焉を告げているようだ。”
カルテスは自嘲を込めて冷たく笑った。

重臣達の気持ちもよくわかる。今日まで平和にやってきた。昨日と今日で何が変わったというのか。はっきりとは言えないが微かな空気の流れが変わったのだと言っても、誰も納得はすまい。しかもそれが清涼な空気に変わったというのであればなおさらだ。何を憂える事があるのだと言われかねない。しかし、夢は確かに未来の暗躍を示していたのだ。

王が軽く右手をあげると、ざわめきがおさまり聖なる間に静けさが戻った。

「して、どうすればよいのか」

王は不安そうに眉をしかめる王妃の肩をしっかりと抱いて、カルテスに問うた。
王の声は落ち着いている。人を安心させる重みのある声だ。

”このお方に守られてロレーヌは平和を保ってきたのだ。王の前では誰もが小さな子供にかえってしまう。しかし、今はダメだ。甘えてはいけない。大丈夫だと安心してはダメなのだ。皆に危機感をもってもらわねば困るのだ。”

確信はあったが、カルテスは軽々しく口を開くのを畏れた。
薬師としての自分の能力は果たして……。

ロールの村で五歳から二十歳まで魔法学校に通った。その時自分の力は非常に弱いと感じた。だからその分、知識を詰め込んだ。

今朝、自分が感じた波動の様なものを、他国の薬師達はどうとらえているのだろう。
そして、先読みの里にいる高貴なお方は……。

先読みの里に行く必要があるかもしれない。他国との話し合いも必要になる。ロレーヌは各国の中心に位置している。ここに各国の薬師を集めるか、それとも、先読みの里に集まるか。

”とにかく長の助言を得たい。”

「先読みの里、ロールに遣いを出しましょう。これはロレーヌだけの問題ではございません」

次へ
MENU
オンライン小説
銀の騎士本編
銀の騎士続編
オンライン小説
銀の騎士外伝-金の王子-
銀の騎士外伝-ショート-
オンライン小説付随Menu
読者様のご感想
世界地図
読者様イラスト
プライベート
お役立ちリンク
人魚姫
ミーチャの出版物