第4章~混沌~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
(1)
魔物は徐々に姿を消していった。
始めは魔物の恐怖なく畑に出たり、草原を歩く事が出来る自由に、人々は歓喜した。
しかし、安穏はそう長く続かなかった。
魔物よりももっと厄介な者達の出現により、再び家の扉は固く閉ざされるようになったのだ。
魔物よりももっと厄介な者
……それは職を失ったハンター達であった。彼等はもともと力丈夫の者達だ。今まで景気よく魔物の石で暮らしてゆけたものが、パタリと収入の道を閉ざされ、今更他に職はなく、地道に畑を耕す事も出来なくなっていた。
彼等は自然と集まり、ならず者の集団を形成していった。
「魔物ならば討つ事が出来る。しかし、相手が人間では……」
人々は策のないまま家に籠り、やむなく外に出る時には、彼等に出会わないように祈るしかなかったのだった。
真面目に働く民人は、魔物より余程ひどいやり方で農作物を荒らされ、家畜を盗まれ、街に出れば金を脅し取られた。酒場が連中のたまり場と成り、自分らの憩いの場所を奪われても、黙って耐えるしかなかったのだ。
そんな治世に不満が湧かないはずはない。村長、町長、領主、果ては国王にまで、さまざまな陳情が寄せられた。しかし、いくら決まりを作ったところで、彼等を取り締まる事は出来なかった。
告げ口をすれば必ずひどい仕返しをされるようになり、人々の口は固く閉ざされるようになった。自ら進んで生け贄になりたいはずもない。この状況をなんとかしようと歩み出る者は、誰一人としていなかった。
ハンターのすべてがならず者になったと言う訳ではない。いなかの村に戻り再び畑を耕すようになった者もいる。街に残り、運良く別の職に就いた者もいる。ハンターに固執し、魔物以外の動物を狩って市場に売り、細々と暮らす者もいた。
だが、ならず者のおかげで、真面目に働く元ハンター達も大迷惑を被った。元ハンターと言うだけでなかなか職につけない。人々は目を伏せて口をきこうともしない。もちろん、依頼が来る事も皆無だった。
こうした人々の態度に嫌気がさし、真面目にやるのが馬鹿らしくなった元ハンターは、自然にならず者集団の中に吸収されていった。もはやならず者と片付ける事が出来ないほど、巨大になった彼等は、いつしかどこかに姿を隠し、組織だって行動するようになった。
組織となった彼等は神出鬼没で、警備騎士団が駆け付けた時には、跡形もなく消えていた。彼等がどこをアジトにしているのか、痕跡はかけらも残されなかったのだ。盗賊集団はやがて”銀のゼヒア”と名のるようになった。
「銀の色を語るとは不届きな輩だ。しかもゼヒアとは!!」
警備騎士団は歯噛みしたが、それをあざ笑うように”銀のゼヒア”は、誰一人捕まらなかった。
ゼヒアは救い主という意味である。自分達の行いを正当化する為に、銀の騎士を象っているのは、間違いない。彼等は何故か銀の騎士を憎んでいるようだった。
「コーリットの銀の騎士は偽者だ。我々の頭目、ゼヒアこそが銀の騎士の再来である」
”銀のゼヒア”は、盗みを働く度にそうふれてまわった。
”銀のゼヒア”の行動範囲は驚くほど広かった。殆ど大陸の西半分を網羅していると言っても過言ではない。ロールの村以外のすべての村、すべての街に出没していた。
”銀のゼヒア”がロールを襲わないのは、本当に銀の騎士の再来だからではないか、先読みの一族がならず者を操っているのではないか、などと、まことしやかな憶測が、あれこれ噂されるようになった。中には”銀のゼヒア”を英雄扱いする者まで出て来た。これこそが”銀のゼヒア”のねらいではないかと思われた。
人々はやりたい放題で自分達を苦しめていた輩と、”銀のゼヒア”が同一の者とは考えないようになって来た。なぜなら、”銀のゼヒア”がおそうのは、村長や町長、領主といった裕福な家ばかりであったからだ。
銀の騎士を崇拝するものと、”銀のゼヒア”を支持するもの、民は二分され始めたのだった。
「銀騎士様を馬鹿にするな!」
「あんなの偽者だ。コーリット王を騙した憶病者さ。本物はゼヒア様だ」
「なんでそんな事がわかる!」
「ゼヒア様には何でもお見通しなのさ」
「黙れ!」
そこで取っ組み合いの喧嘩が始まった。このような光景は街のいたる所で日常茶飯事だった。
小さな諍いが絶えなかった。皆が刺々しく、怒りをかかえて生きていた。
コーリットだけではない。
西側のすべての街で同じような事が起こっていたのだった。
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