第3章~杞憂
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
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「なっ!
何で俺がそんなめんどくさい事しなきゃなんねえんだよ。最初から小細工なんかしないで、アルビンがやりゃいいじゃねえか。俺はごめんだね」
案の定、シュールは盛大に反抗した。しかし誰もシュールの味方をする者はない。
「だってしょうがないじゃないか。諦めなよ、シュール。もう銀の騎士様なんだからさ」
「そうよ、せっかくアルビン様がどうしようもない銀の騎士に手柄をたてさせてくれるって言ってるんだから、素直に従いなさいよ」
アビもチチも、はなからアルビンの味方だ。
誰一人、「シュールがそんな事する必要無いよ」とは言ってくれない。
「あーあ、俺もう銀の騎士なんてやってらんねえよ。なんとかしてくれよ。そうだ、俺だと思ったのは間違いで実はアルビン様でしたって言やいいじゃねえか。髪は黒だけどよ、もうちょっと年取りゃ、すぐに銀に見えるって」
むちゃくちゃな事を言うシュールに、チチは容赦なく杖を降り降ろす。
ポカッ!
「
いってぇーな! くそっ。それ、いい加減やめとけよ」
そうは言うが、シュールはこの、シェーラの形見の杖に弱かった。
これを出せば大抵は言う事を聞かせる事ができると、チチにはもうわかっていたのだった。
シュールはふーっと大きく肩で息を吐いた。
くそっと悪態をつきながらどかっと深く椅子に腰掛ける。
「で? 何やりゃいいってんだ」
不機嫌そうにしているが、シュールもやっと観念したようだった。
そこへ待っていたようにタイミングよくアルビンが入って来る。
「話はついたようですね」
何か一言でも言わなければ気の済まないシュールだったが、派手な事は出来ない。チチが杖を持って待機しているからだ。だから、アルビンにだけ聞こえるような小さな声で、ぽつりと言った。
「あんた、俺の事嫌いなんだろ」
「まさか、その逆ですよ」
アルビンもシュールにあわせて小声で微笑む。
「うそつけー!」
思わず大声を出してしまい、やっぱりチチにポカッとやられたシュールだった。災難は続くものだ。
「では、ふざけるのもこの辺にして中庭に行きましょう」
アルビンがすたすたと部屋を出る。あわてて後を追うアビ。チチも小走りに二人を追い掛けた。ふてくされた様子のシュールを、なかば無理矢理に引きずりながら。「ふざけてんのはてめーだよ」と思いながらも、ズルズルと引き摺られて行くシュールであった。
「まず民人の信仰を集める為に、簡単な舞を練習しましょう」
「へ?」
「へ?じゃないわよ。舞よ、舞。踊りって事」
チチが解説を入れる。
「冗談だろ、あんたこそ、いつまでもふざけてないで真面目にやってくれよ」
シュールはがっくりと肩を落とし、その場にへたり込んでしまった。
「冗談ではありませんよ。先読みの力の発現は、舞や歌になって現われると、一般に信じられています。本当のところは、わざわざそんな事をせずとも、力を使う事が出来るのですが、これはあくまでも民人へのデモンストレーションですからね。舞がお嫌なら歌って下さってもいいですよ」
「デ? 何だって? 何言ってんだかさっぱりわかんねえよ」
アビがクスッと笑って、シュールを慰めた。
「歌よりは舞の方がいいよ、きっと。剣技の型みたいなものだから、大丈夫だよ」
アビは、ロールの魔法学校でこういう舞を習うのだと訊いて知っていた。アルビンの舞うような剣さばきがお手本だと、ラルボが言っていた事も思い出して、シュールに説明したのだ。
「大丈夫、あなたに華麗な舞など期待しませんから。出来ると思うから言っているのですよ。では時間がありませんから、早速」
アルビンはシュールに剣を渡し、さやの付いたままの剣を、両手でしっかりと捧げ持つよう指示した。
「今から私がやってみますから、同じようにあとから付いて来て下さい」
そう言って流れるような優雅さで、剣をあらゆる角度に持ちかえる。アルビンが舞と称したそれは、あっという間に終わったが、溜め息を漏らさずにいられない完璧な動きだった。
「さあ、やってみてください」
そうアルビンが声をかけるまで、シュールもアビもチチも、ほうっと見とれてしまったくらいだ。
「アルビン様、もう一回やってください。シュールは覚えが悪いから」
チチが惚けているシュールに替わって頼む。本当はアルビンの舞をもう一度見たかったのだ。
「では今度はゆっくりやってみましょう。これが一番の基本ですから、しっかり見ていて下さい」
一番の基本という事は二番もあるんじゃないだろうな、などと口をついて出そうになったシュールだが、ぐっと堪えてあとの言葉ごとのみ込んだ。
剣のはじめの位置は目の高さ、次に斜にして右上、左下、そのまま回って再び目の高さまでゆっくり持ち上げる。簡単な動作だったが、これほど優美に舞うのは、シュールには到底無理だった。
早速型を覚えたチチが、特訓の準備に入る。
「次は右上よ。違う違う、違うったら。目線は剣の方向よ。何それ、あはは」
「くそっ、言いたい事言いやがって。今に見てろよ」
シュールは呟くように文句を繰り返しながら、嫌々ながらに型を練習した。
いつの間にかアルビンの姿はなく、三人は暗くなるまでずっと一つの動作を練習していた。
次の日も朝早くからチチの号令で練習は始まった。
「もういいだろ、やる事はこれだけか? まだなんか出て来るんじゃないだろうな」
ぶつくさ言うシュールに、チチはきっぱりと言った。
「アルビン様がいいと言うまで、ずっとこれをやるのよ、文句言わないの!」
来る日も来る日も練習は続いた。チチはシュールが間違えると容赦なく杖をふり降ろす。一緒に練習しながら、少しシュールを気の毒に思うアビであった。
六日目の朝、いい加減うんざり顔のシュールと、ころころと元気のいいチチ、そしてすっかりマスターしてシュールに見本を見せるまでになったアビが、王宮の中庭で今日の練習をしているところへ、静かにアルビンがやってきた。
「ああ、まだそれをやっていたのですか」
横目でちらりとシュールを見て、口の端で微笑む。
「
まだだと?」
シュールが不機嫌に睨み返す。その反応を楽しむようにアルビンがさらりと言った。
「本に夢中になって忘れていましたよ。今日から次の課題に入りましょう」
「な、なにぃー!?」
気の短いシュールである。いつもなら取っ組み合いのけんかになるところだが、チチに再三言われている為、アルビンには手を出せず、かっかとして地団駄を踏んだ。
「おかしいですね。少しも精神統一されていないようですよ。彼は本当に舞をやっていたのですか?」
石畳に八つ当たりするシュールを後目に、アルビンはアビに耳打ちした。何と答えてよいのかわからず、アルビンとシュールを交互に見やる。舞は精神を統一し、精霊力を感じ易くする為のものだ。しかし、もともと精霊力を操る事が出来ないシュールに意味があるものなのかどうか、アビにはわからなかった。
チチがシュールに何か言いに走る。仏頂面のシュールの袖を引っ張って、チチがアルビンのもとに連れて来た。こうやって見るとシュールもまだまだ少年であった。
「さて、次は儀式の順序ですが」
そっぽを向いているシュールに構わず、アルビンは三人の立つ位置を決めて行く。
「はじめはあの出口から」
そう言って王宮の前庭に通じる大きな扉を指差す。
「銀の騎士と騎士を支える魔法のツボを持った薬師、それに銀の騎士の剣を捧げ持った小姓が出て来る。そして、中央に設えた篝火の前まで来て、銀の騎士を中央に、あとの二人は一歩下がって立つ。そこで鐘を鳴らす。鐘は私が前もって頼んでおきましょう。」
アビとチチは真剣に頷きながら聞いている。
「あんたはどうすんだよ」
シュールがやっとこちらを向いた。
「私ははじめからここに」
そう言って、アルビンは少し離れた大きな木の陰に入った。
「シュールは何も話さず、今のように黙って立っていて下さい。儀式の進行は薬師であるチチが、民に告げるのがよいでしょう。チチが銀の騎士を紹介……紹介と言うのもおかしいですが……紹介したら、アビがシュールに剣を渡して、居並ぶ魔物を前に、シュールが三度舞います。位置はこのあたり」
アルビンは側の木の枝をポキリと折って、石畳の庭に線を引くように、シュールの舞う位置をなぞった。
「終わったら剣をアビに持たせ、チチが魔法の粉が入ったツボをシュールに渡します。シュールは魔物の中へ入って行き、粉を満遍なく魔物に捲きます」
「ま、魔物の中に丸腰で入ってけってのか!?」
アルビンは余裕で微笑んだ。
「大丈夫、魔物の動きは私が封じておきますから」
「信じられっかよ」
「またそんな言い方を!」
横でチチがシュールを突つき、シュールは再びプイッと横を向いてしまった。
「シュールが粉を捲いている間に、私が呪文を唱えますから、魔物は次々元に戻って行く事でしょう。全て終わったら、民は銀の騎士に惜しみなく賞賛の言葉をかけるでしょうけれど、シュールは誰にも答えず、そのまま三人で来た道を王宮の中まで戻って下さい。あとのことは騎士団の方々にお任せしましょうう」
不安そうに見上げるアビの肩にポンと手を置いて、アルビンは笑った。
「大丈夫ですよ。すべてうまくいきます。歩き方や剣の持ち方はチチが知っていますから。あとはチチに従って練習して下さい。あくまでも厳かに締めくくらなければなりませんから、途中でしゃべったり転んだりしないでくださいね」
アルビンがにっこり笑って「では」と、行ってしまうと、案の定、シュールが文句を言い始めた。
が、誰も聞く耳を持たなかった。
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