第3章~杞憂
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
(8)
アビは、アルビンがなかなかロールへ帰ろうとせず、ここ、コーリットに留まっているのは、自分の為ではないかと、思い始めていた。元気になったとはいえ、シュールはまだまだやつれて見えるし、それに街で噂されている事も気になった。アビは今、出来るだけシュールの側にいたかったのだ。そんなアビの思いを、アルビンは見抜いていて、ここでゆっくりと時間を過ごしているように思えてならない。
もちろんそれだけでなく、他にも何か深い御考えがあって留まっているのかもしれないが、シュールやアビの事を気づかってくれているのは間違いない。
コーリット城では、先読みの時期長候補の助手は、高待遇だった。それに、今をときめく銀の騎士の客でもある。ずっとここで暮せたら、どんなに幸せだろう。
でも、だからと言っていつまでも厚遇に甘えている訳には行かない。
ここに滞在している間にしなければいけない事があるはずだ。
アビは前々から思っていたがなかなか言えなかった事を、やっとアルビンに告げる決心をつけた。
「あの……アルビン様、お願いがあるんです」
遠慮がちにおずおずと話を切り出すのはアビの癖だ。
だが、今日はそれに一段と拍車がかかっている。
「何ですか? 改まって」
コーリット城の地下に造られた大きな図書室で、アルビンは読んでいた本を置き、アビに向き直った。テーブルの上に置かれた燭台に灯る炎がかすかに揺れた。
「魔物になってしまった犬を、元に戻して欲しいんです」
「……それはいいですけれど、どこの犬ですか?」
どこから話したものかとしばし迷って、アビは口を開いた。
「僕、去年コーリットの城下町で、リーネさんというお婆さんと知り合ったんです。その犬はリーネさんの家のファーガって犬で、突然魔物になってしまって街の人に追われていたのを、リーネさんが助けようとしてて……それで僕達も助けるのを手伝ったんです。リーネさんは魔物になったって、ファーガはファーガだって。ファーガの方もリーネさんに襲い掛かる様子はありませんでした。僕達、一晩泊まって様子を見たんですけど、とり肉を食べさせてお腹いっぱいにしておけば、人間を襲わないんです」
ちゃんと伝わっただろうかと不安そうに押し黙る。
「それは興味深い事例ですね」
黙って聞いていたアルビンは、なにやら考え込んでから、急に楽しそうににっこり笑った。
「ではその役目、銀の騎士に御願いしましょうか」
「えっ、シュールに?」
アビにはいつも、アルビンの考えている事はわからない。シュールには魔物を元に戻す力なんてないのに。そんなアビの心配をよそに、アルビンはコーリットの城下町にふれを出すよう、王に許可を求める書類をつくりはじめた。
のぞいてみると、その内容はこうだ。
「来たる雪祭りの早朝、コーリット城前庭にて、銀の騎士が魔物化した家畜に祝福を与える。家畜の魔物化を戻したいものは、王城前庭に魔物を連れて来るべし。当日は特別に見学者も前庭への入城を許す。」
アルビンの耳にも、街の噂は届いていた。コーリットの銀の騎士が偽者で、盗賊集団の頭である銀のゼヒアこそが、本物の銀の騎士の再来だといううわさである。これは由々しき事だった。民の混乱を防ぐ為にも、コーリットの銀の騎士は本物でなければならない。
民に銀の騎士の偉大さを見せつける事は、先読みの一族への尊敬を植え付ける事でもある。この派手な行事は、効果絶大の筈だ。シュールさえうまくやってくれれば。
アルビンは書き終えた書状をもって立ち上がると、アビの背にそっと手をかけた。
「さあ、雪祭りまであと数える程しかありません。シュールの特訓をしなければね」
と爽やかに笑う。
シュールの嫌な顔が眼に浮かぶようだ。
アビは曖昧な笑みを返す事しか出来なかった。
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