第2章~出会い~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
まよいの森(1)
出発したのは明け方だった。
アビはシュールの家の狭い居間のソファーで横になって、朝が来るのを待ったのだ。
昨日サイナにさよならを言った後、追い付いたアビに、
「おばさんには挨拶したのか?」
と、シュールが聞いた。
「まだ・・・。」
「10年も育ててくれたおばさんだぞ。」
「手紙を置いてきたよ。」
「いつ帰って来られるか分からないんだ。ちゃんと挨拶した方がいいんじゃないか?」
「おばさんは本当は僕の事嫌いだもの。出て行ってくれて喜んでるよ。」
「そんな事あるわけないじゃないか?確かにお前んとこのおばさん、ぶっきらぼうだけど、
嫌いなやつを10年も育てられないよ。」
「・・・そうかな?・・・」
「今日は遅くなっちまったし、1回帰れよ。」
「やだよ。村のうわさでおばさん機嫌悪いに決まってるし、もう置き手紙だってしてきたのに。」
「なら勝手にしろよ。でも俺は帰って明日の朝出るつもりだぜ。今出たって野宿になるだけだ。」
「シュールの家に泊めてよ。」
「帰れってば!」
「やだ!」
そしてとうとうシュールの家まで付いて来てしまったアビだったが、
結局眠る事は出来ず、
まだ村人達の起きだす前に出発したのだった。
村の外はアビにとって初めての世界だ。近くの森で狩りをする以外は、外に出た事はなかったし、 村の港は、アビが物心付いた時には閉鎖されていて、外からの情報も全く入って来なかった。 未知の旅は心が踊るような楽しいものの筈だったが、その間アビの心を占めていた事は、 おばさんに挨拶しないで、勝手に出て来てしまった事への後悔だった。
・・・やっぱりシュールの言う事聞いておけば良かった・・・
旅に出るのは精霊に運命を告げられたからだと、大義名分を掲げてはいたが、 アビの本心は、村人達の冷たい視線から逃げたかっただけかも知れない。 村中に嘘つき呼ばわりされて、誰にも見つからないようにコソコソと村を出て行ったなんて、 村中の噂になったら、残されたおばさんは大丈夫だろうかと、急に心配になって来たのだった。
・・・おばさん、ごめんなさい。光る石を沢山お土産に持って帰るから・・・
シュールはそれなりにウキウキと楽しそうにしている。
前から何となく村の外へ出たいと思っていたので、いいきっかけになったのだろう。
理由は何でも良かったし、家族もいないので、何も悩む必要はない。
しばらくは村長のくれたお金でやっていけるので、2人はなるべく魔物に出くわさないように、
比較的安全な草丈の低い草原を歩いた。
シュールは古い地図を持っていたが、それが正しい地図なのかどうか、2人とも分からなかった。
でも、他に頼れる物もなかったし、何よりも目的地がどこなのか分かっていなかったから、
その古い地図を頼りにするしかなかった。
「とにかく城がある街を目指そう。何かいい情報が入る筈だ。」
シュールは、開いた地図の中に書き込まれた、コーリット城らしき場所を指差して言った。
コーリット城は、ププタン村から一番近い城である。
しかし国と言う概念は曖昧で、コーリット城の王様がププタン村を治めていると云うわけではなく、
街や村ごとに違った掟にしばられていたので、2人とも城や王について何も知らなかった。
2人にとって王様は、とてつもなく大きな家(即ち城)に住んでいる、
大金持ちの、村長みたいなものと云うイメージしかなかった。
コーリット城の周辺地域がコーリットと呼ばれているのは、村長から聞いて知っていたが、
ハッキリとここからと云う国境の様なものはないらしい。何日かかるのかも分からなかったし、この古い地図に印された城の絵が、
果たして本当にコーリット城なのかさえ、分かってはいなかったのだが、
シュールにとっては、その何れもがどうでもいい事だった。
出発してから2日目の夕方、やっと隣村フェンに辿り着いた2人は、
村に1つしかない宿屋に部屋をとり、1階にある酒場で食事をする事にした。
隣村については多少聞いた事もあり、だいたいの位置も村長から聞いてはいたが、
まさか2日かかろうとは思わなかった。食料は念の為4~5日分は用意していたものの、
水がもうすぐ無くなりそうだったので、アビは方向を間違えたかと不安になっていたところだったのだが、
もちろんシュールは、呑気に構えている。
「な?大丈夫だって言ったろ?」
肉にフォークを突き立てながら、シュールが言う。
「シュールは、何でも大丈夫だって言うじゃないか!ちっとも大丈夫じゃない時でもさ。」
「にいちゃんたち、仲間割れかい?」
聞いていた隣のテーブルのおじさんが声をかけて来た。
「あんた達ハンターだろ?どっからきたんだ?」
「ププタン村だよ。」
誰とでも気さくに話せるシュールが、軽く答え、アビは黙ってうつむいた。
「ははぁ、コーリット城に行くんだな。先頃ふれが出たあれに挑戦するつもりなんだろ?
やめとけ、やめとけ。そんな細っこいにいちゃんと子供じゃ、無理に決まってら。
第一、まよいの森を抜けられなけりゃ、コーリット城にゃ行けないしな。」
「なんだそりゃ?何かふれが出たのか?」
「知らないのか?だいぶ前だぞ、ふれが出たのは。まあ、ププタンは田舎だから仕方ないか。」
「むっ。失礼なおやじだな。ここだって似たような田舎じゃないか!」
「なんだと?ここはコーリット城に行く旅人達が、必ず通る唯一の村なんだ。
ププタンなんかと一緒にするな!」
「なんかとは何だ!行った事もない癖に!」
「やめてよ、シュール。おじさんごめんなさい。それで、そのおふれっていうのは、どんなのなの?」
喧嘩が始まりそうだったので、慌ててアビが口を挟んだ。
「ん?ふれか?ほんとに知らないのか?」
「うん、ププタンは田舎だから、情報が入って来ないんだ。」
不服そうなシュールを制して、アビが続けた。
「ふれってのはあれよ、氷の洞くつ、あそこの奥に聖なる石が眠ってるって伝説があってな。
それがもしかしたら碧の石なんじゃないかって、そんなうわさでな、お妃のアルテ様が、
どうしても欲しいってんで、氷の洞くつに調査隊を出したんだが、だ~れも帰って来ない。
そこで、氷の洞くつの聖なる石をとって来たら、褒美は10000バルだっていうふれを出したわけだ。
10000バルっていやぁ、一生遊んで暮らせる額よ。 10000バル=約1億円
各地から腕自慢が集まって来たんだが、まだ誰も碧の石をとって来れないわけよ。
しかもこっち側からコーリット城に入る為には、まよいの森を通らなきゃならん。
おっと、まよいの森ってのはな、前はふつうの森だったんだが不思議な事に、
そのふれが出たとたん、迷路みたくなっちまって、進んでも進んでも振り出しに戻るってわけよ。
そりゃこまったって・・・」
「ありがとうおじさん、もういいよ。僕達行かなくちゃ。」
おじさんの話が永遠に続きそうだったので、アビは、シュールを引っ張って席を立ち、部屋に戻った。
「どうする?シュール。」
「何が?」
「何がって、まよいの森だよ。通れなかったらコーリット城には行けないじゃない。」
「大丈夫だろ?あのおやじ、大ほら吹きだぜ、きっと。それより早く寝ちまおうぜ。」
初めての宿屋のベットは、なんだか柔らかすぎて寝つけない気がした。
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