第3章~危機~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
氷の洞くつ(1)
氷の洞くつ------それはコーリットの最北端にあった。
普段は北の海の霧の中にひっそりと佇むその小島は、潮が引くとコーリットと陸続きになって、歩いて渡る事が出来る。
潮が満ちている時小舟で渡ろうとしても、必ず行き着く前に座礁してしまうので、島に入る為には潮が引くのを待つしかないのだが、潮が引くのは決まって夕暮れ時。無気味に真っ黒な口をあける洞穴は、小さなその島の中央にあった。
入り口は自然穴かと思わせる風情であったが、中は明らかに人の手が加えられている。
いったい誰がいつ、何の為に造った洞くつなのか、古い歴史を持つコーリット城の王でさえも知らなかった。
ここに聖なる石が封印されているという話の確かな出所もついには分からなかった。
普段誰も足を踏み入れる事のなかった冷たい洞くつは、カビの臭いが充満している。中は真っ暗だったが、それでも目が馴れて来ると、岩間にびっしりと生えた光ごけのおかげで、何とか人の顔も見分ける事が出来る。空気が希薄なせいか、たいまつの火はずぐにゆらゆらと細まり、しばらく経つととフッと消えてしまうので、この薄暗がりに目を馴らすしかなかった。
氷の洞くつ、誰が付けた名前なのか。入った事のない人々が、もやに包まれた寒々しいその場所に付けた名前。
しかし実際にはどこにも氷は張っていない。ただ、冷たい空気が流れているだけだった。
準備は万端・・・とはいかなかった。
洞くつの中では明かりをとる為に、例えすぐに消えてしまうとはいえたいまつが必要だが、一人一人持つのではとっさに魔物が現れた時対処出来ない。荷物も極力減らしたい。たいまつと替えの油だけでもかなりかさ張っているのだ。
その上着慣れない毛皮、これが思うように動けない。が、着ないと寒くて凍えそうだった。
とにかく大人数である。何を持つ持たないで、なかなか意見があわない。
「こりゃ、何をもめとるか!」
シェーラの喝がとぶ。
「だってよぉ、婆さん、アミューのやつ、こ~んなに食いもん持ってくって言うんだぜ。遠足じゃねえっての。婆さんからも言ってくれよ。」
「何が起こるか分からないんだぞ。食いもん持ってなきゃ、死んじまうじゃねえか。」
シュールに対抗して、アミューは食料の入った汚い布袋を抱え込んだ。
「あのなあ
お前達そんな事でもめとったのか。緊張感のないやつらじゃ。」
やれやれという顔で、シェーラは説明を始めた。
「これから行くのはな、こ~んなちっちゃい島の中にある洞くつなんじゃ。」
シェーラは左手の親指と人さし指をくっつけて小さな輪っかを作ってみせる。
「勿論、誰も中には入った事はないから中の広さは分からん。じゃが、もし一時間歩いてもまだ路が続いとったら、一旦帰って来て作戦を練り直しせねはならんじゃろう。じゃからな、そんなにいっぱい食い物を持たんでも大丈夫じゃよ。」
「だってよ、調査隊の奴らが誰も戻って来ないって事は、きっと中が迷路になっててよ、迷っちまったと思うんだ。そんで食いもんがなかったから、おっちんじまったに違いねえよ。そうならない為にも..。」
「お前バッカじゃねえか。」
アミューが言い終わらないうちに、シュールが口を挟んだ。
「魔物にやられちまったに決まってんだろーが。調査隊の奴らは大荷物で行ったから、突然魔物に襲われて反撃出来ずに御陀仏したんだよ!お前その荷物でたいまつまで持って毛皮も着て、反撃出来るわきゃねえだろ?」
「なんでわかんだよ。んなことよ。」
「誰でもわかんだよ。」
シェーラがうなづいて、しゃがんで袋を抱えるアミューの肩にポンと手をのせる。
「今回は、シュールの言う通りじゃ。なるべく身軽でな、アミュー。」
「ほら見ろ、婆さんだっていつも俺が正しいって言ってるだろ?俺の言う事聞いときゃ間違いねえんだって。」
「ポカッ、今回はと言うとろうが。調子に乗るでない。」
「ってぇな。んだよ。お前のせいでまた殴られたじゃねえか、くそー!」
「わかったよ、置いてけばいんだろ?」
アミューはしぶしぶ袋の中から食べ物は出し始めた。名残惜しそうにひとつひとつ。
アミュー達の村もやはり貧しく、この城で出されるようなごちそうを目にした事がなかったので、ついつい溜め込んでいたのだった。とっておいて村に持って帰ろうとでもしたのだろうか。
袋からは後から後から、食べ物が出て来る。
「お前、こんな物までとっといてたのか?腐るぞ。」
2日前の夕食に出された鶏の足が出て来た時には、シュールもさすがに呆れて忠告した。
が、気持ちは分かる。
ププタンを出発する時、村長の家で出された料理に感激したのは、ついこの前だった。しかし城の料理は、比べ物にならないくらい種類も量も多かった。シュールには食べさせてやりたい家族はいないが、アミューには家族がいる。とっておきたい気持ちにもなるのだろう。
「焼き菓子ぐらいにしとけ、とっとくのは。」
シュールの言葉にシェーラが首を横に降る。
「村に帰る時には、わしが土産を用意してやるから、何もとっとかんでええ。」
シェーラがいつになく優しい表情で言ってから、ちょっと照れたように笑った。
「さてと、わしも出発の準備をせねばの。」
「へ?どっか行くの?」
「何寝ぼけとる!氷の洞くつに行くに決まっとろうが。」
「え、え------!!!婆さんも行くのぉ-----!?」
「当たり前じゃ。御主らだけに任せておけるか!!」
シュールとシェーラの大声に、準備をしていた全員の驚きの視線が集まった。
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