第5章~迷宮~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
ピカの街(1)
「すごいね、シュール。こんなに早く神殿が出来るなんて。」
「ああ、あっという間だったな。もうここまで出来ているとはな。」
アルテ様の命で、神殿工事は着々と進んでいた。まよいの森のシェーラが住んでいたあの場所に、神殿の骨組みが出来上がっている。三つ目の銀の小箱を手に入れた二人は、一旦ザトーの村に寄って馬に乗り、途中サニの村で新しい馬に換えてから、コーリットへ戻って来たのだった。
そして、チチに案内されてこの神殿を見にやって来たという訳だ。
チチはすっかり元気を取り戻していた。もしくはすっかり元気なふりをしていた。
「勝手に行っちゃうなんてひどいじゃない!」
開口一番、チチはこう言って顔を膨らませた。
「え?だって、アルテ様が・・・」
「そうなのよ。アルテ様ったら私の事心配してくれるのは嬉しいけど、朝から晩まであれやこれやと。私、もう大丈夫だって言ったんだけどね。」
チチはそこでふと淋し気な笑顔をつくった。
「おばあちゃんは私にアビ達と一緒に行けって言ってた。だから私、一緒に行くつもりだった。それなのに、勝手に出てっちゃうなんて!」
「ああ、わかった、わかった。今度は連れてってやるから、そう膨れるなって。」
シュールがチチをなだめにかかった。
「絶対よ!」
「はい、はい。」
仕方ない、というように溜め息を付く。
「ただし、アルテ様がいいって言ったらな。」
シュールは悪戯っぽく笑った。
「あっ、ずるーい!アルテ様が絶対いいって言わないと思って言ってるでしょ!?いいわ!説得してみせるから。今度勝手に置いてったら、魔法で呼び寄せるわよ!」
「げっ、そんな事出来んのかよ?」
「見くびらないで!おばあちゃんに修行を受けたんだから。」
チチは得意そうに答えた。
アビは楽しそうにじゃれ合う二人を見つめながら、一人別の事を考えている。
アビにとっては大きな問題だ。
「ねえ、チチ。一緒に行くにしても、ここに戻ってくるんでしょ?」
アビは前から思っていた事を頼もうと、遠慮がち口を開いた。
「うん、まあ。他に行く所ないし。アルテ様も私に二つも部屋をくれたし。」
「じゃあさ、チチの部屋でこれ、預かってくれないかな?」
アビはいつも肌身離さず持っている愛用の袋の中から、更に小さな革袋を取り出した。コーリットならすべてが終わってププタンに帰る時に寄っていける。ここで預かって貰えたら、これからの旅がずいぶん楽になるだろう。
「いいけど、何それ?」
「光らない石。」
チチは驚いてシュールの顔を見る。
「俺は集めてないぜ。」
シュールはあわてて首を振った。光らない石を集める者など聞いた事がない。そんな人間がいるなんて、チチは驚きを隠せない。旅の間は荷物は最小限にとどめたい筈だ。それをわざわざ、何の役にも立たない光らない石を持ち歩いていたなんて。
実は、前にザトー達の村に同行した時も、今までたまっていた光らない石をチチの部屋に勝手に預けて来ていた。ここに帰って来るつもりだったからだ。
どうやらチチは、アビが置いていった袋に気づいていないらしい。
「そんな変な顔しないでよ。」
アビはちょっともじもじしながら伏し目がちに言った。
「僕のけじめだよ。ハンターを始めた八歳の時からずっと集めてるんだ。
それに、この前も勝手にチチの部屋に預けておいたんだけど。」
チチはかける言葉が見つからず、
「・・・重かったでしょ?」
とだけ言った。
アビははにかんだように笑っただけで、答えなかった。
「そうだ!光る石も重いから換金しとこうぜ。」
シュールは言いながらもう、建設中の神殿の大きな扉まで、すたすたと歩き始めている。
アビとチチは小走りにこれを追った。
森の入り口に繋いだ馬で、三人はコーリットの城下町へ戻った。
これから先の買い物も必要だった。もう薬草も底を付いているし、着替えも買わないと、あちこちがほころびている。
「私もちゃんと数に入れてよ。」
チチに釘をさされ、
「はいはい。」
と答えはしたが、おそらくシュールの頭には、チチは数に入っていなかっただろう。
小さな女の子を連れた旅など考えられなかったし、アルテ様が許す筈もないと思っていたからだ。
光る石を換金し、買い物を済ませると、残金は12バルと8500ゾルだった。
「派手に使ったつもりだったが、結構あるよな。」
数え終わって満足げなシュールに、アビが言った。
「さすが城下町だね。ちゃんとバルでくれる。」
「そう言えば俺、バル持つの初めてだぜ。」
ゾルがコインなのに対し、バルは紙幣であった。ププタンでは一度も紙幣を見た事はなかったが、コインで持っているより紙幣の方が軽い。これからも光る石は増えていくだろう。少しでも軽い方が旅を続け易かった。
「でも、田舎の村では使えないかもね。」
アビに言われるまで、シュールはその事に気づかなかった。言われて初めて、
「あ~~!そうだよ!城下町より田舎の方が多いじゃないか~!」
と嘆いた。するとチチが、
「大丈夫よ、田舎では光る石のままで、換金する必要無いんだから。これからどんどん光る石、たまるでしょ?」
と、片目をつぶった。
アビはその顔があまりにかわいらしかったので、慌てて目を逸らしてしまった。チチもシュールも気づかなかったが、きっとアビの顔は紅くなっていたに違いない。しかし、その事には当人すらも気づいてはいなかった。
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