第4章~謎~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
ツール村(5)
「これだ。予感がしたのは。」
シュールは信じられないというような面持ちで立ちすくんだ。
「うん、やっぱりあった。これは精霊の記憶のおかげなのかな?」
「違うだろ?俺達が冴えてるんだ。精霊なんて何の役にも立ちゃしないさ。第一こうやって旅してるのだって精霊の為で、俺達には何の得もないってのに。」
確かにその通りだ。でも、だからと言って二人とも旅を止めようとは思わない。ププタンの裏山で精霊によって見せられたという情景は、一つも思い出せなかったが、二人の行動に影響を及ぼしている事は確からしかった。だからこそ自分の為でもない旅を止めようとも思わないし、知らない内に正しい路も選べるのだろう。
海沿いに歩いて来たのは正解だった。
数ある自然穴の中から、ただ何となくここに足を踏み入れた事も、やはり正解だった。
「大丈夫、思った通りに行動すれば間違いはない。」
シュールはアビに、と言うより自分に言い聞かせるように力強く言い放つ。
「大丈夫。思った通りに行動すれば・・・」
アビもその言葉を小さく繰り返した。
目の前には封印の石碑がある。古代語で何か文字が刻まれた、ププタンの裏山にあったモノとよく似た、あの封印の石碑が。
「氷の洞くつの聖なる石はちょっとこれとは違ったね。何でだろう?」
「んなこたぁ、どうでもいい。俺達には関係ない。」
「ここの事、ザトーは何も言ってなかったね。」
「知らなかったのさ。何年も誰かが来た気配はない。」
「ここは、」
「アビ!」
シュールがアビの言葉を遮った。
「引き延ばしてないで早いとこ済ませよう。」
アビの身体が一瞬ブルッと震えた。それから決心したようにうなずくと、シュールの目を見ながら、シュールはアビの目を見ながら、同時に石碑に手をのばした。その瞬間、二人は無意識に堅く目を閉じていた。
身体があつい。
灼けるようだ。
動けない。
精霊が現われたのか。
アビの頭を同時に色々な事がかけ巡った。
そろそろと目をあける。
横にいた筈のシュールは跳ね飛ばされて倒れていた。
目の前に炎が渦をまく。
シェーラが炎に包まれた一瞬をアビは見ていない。見ていなくて本当に良かったと言えた。もし今、目を開けているのがシュールだったら、あの時の情景が蘇って叫び出していたかも知れない。だが、アビはシェーラがどうやって死んだのか知らなかった。誰もその時の詳しい様子などアビに知らせはしなかったからだ。
アビは恐ろしい音を立てて燃え盛る炎から、目を逸らす事が出来なかった。
炎はだんだんと乙女の姿を取りはじめる。
アビはふと伝説の詩を思い出した。
麗しき乙女の姿かりし、
いにしへの神降り立ちん。
ああ、いにしへの神だ。精霊の事だったのか。
・・・我を目覚めさせし者。我の器を開けよ。・・・
炎の固まりは美しい女性の姿で、威厳に満ちた口調で、アビの頭に直接話し掛けて来た。
「器?銀の箱の事?」
アビは独り言のように呟いて、辺りを見回した。
いつの間にか動ける様になっていた事に気づくと、アビはまわりをくまなく探し始めた。ププタンの時は山の頂上にそれはあった。氷の洞くつでは別の部屋にあった。今度は・・・?
・・・我の器は石碑の下・・・
再び精霊が言葉を発した。
いや、実際に発した訳ではない。唇は動いていない。アビの頭にそう聞こえて来ただけだ。
アビは封印の石を持ち上げようとした。が、それは重くて、とても一人では持ち上げる事が出来ない。
「あの、僕一人ではこれは持ち上がりません。」
言い終わる前に精霊はふっと姿を消した。
シュールがだるそうに起き上がる。
「もう終わったのか?」
「石碑の下だって。僕一人じゃ持ち上げられない。そう言ったら消えちゃった。」
「ふーん。よし、どけるか。」
精霊に意識を奪われるのももう三回目だ。
シュールはすっかりこの感覚に馴れて始めていた。
「せいの!」
アビはシュールの動きにあわせて力一杯石碑を押した。ゴロッと石碑が転がる。
埋まってはいなかったらしい。石碑がおいてあった所の土を丁寧にどかしていく。
「あった!」
「そりゃ、あるだろ?なかったら怒るぞ。」
アビはシュールを見てクスッと笑った。
そして出て来た銀色の箱にまだ付いている土をゆっくり払ってから留め金に手をかける。
期待のまなざしで銀の箱を見つめる二人。そして・・・
「あれ?」
アビの顔が緩み、すまなそうにシュールを見る。
「なんだよ。緊張して待ってたのに。」
「ごめん、でも、これ、開かないよ。」
「え~?ちょっとかして見ろ!」
シュールは留め金をこじ開けようとしたが、無理だった。
「うぐぐぐぐ・・・・」
「シュ、シュール。そんなに力入れたら、壊れちゃうよ。」
「馬鹿言え!600年も悪いやつ封じ込めてたんだ。そう簡単に壊れるもんか!」
「600年も経ってるからこそ、壊れるんじゃないか!」
「大丈夫だって!」
しかし、シュールがいくら力を込めても留め金は開かなかった。
「ここ、浄化されてないんじゃない?」
「んじゃ、どこが浄化されてんだよ、くそっ!」
シュールはやっと諦めて、箱をアビに手渡した。いつの間にか、アビが銀の箱を持つものと決まっているようだった。アビは渡された箱を袋にしまいながら、中を覗き込む。三つの銀の箱を確かめると、満足そうに袋の口を閉めて照れくさそうに笑った。
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