第1章~旅立ち~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
ププタンの村(8)
裏山に向かった2人は、まず封印の石碑があった所へ行ってみた。
でもそこには何もない。封印の石は砕けていたが、それ以外は何も精霊を呼び出すための印はない。
くまなく調べたし、声を出して呼んでも見たが精霊の気配はどこにもなかった。
夢だったと云うのだろうか?
しかし、山は清清しく澄み切った空気に包まれ、確かに浄化されている事は分かる。
もう諦めて帰ろうとした時、何気なくポケットに手を入れたアビは、
覚えのない四角い小さな箱が入っているのに気が着き、右手でそっと取り出した。
「シュール!これ・・・」
「ああ、あの時の箱だ。目をつぶって開けてみよう。せいの!」
ふたをあけると精霊の光が溢れ出す。
それは昨日精霊の杖が入っていた、あの小さな銀色の箱だった。
「目を開けても大丈夫よ。」
精霊の涼やかな声に、そっと目を開けると精霊は手のひらの小さな箱の中に居た。
「この中に住んでるの?」
アビは驚きをかくせずに聞いた。
「違います。この箱は精霊界と人間界を繋ぐ通路みたいなもので、
浄化された場所でなければあける事は出来ません。」
「今日はずいぶん小さいんだね。」
「精霊に実体はありません。だから、あなた達の目が潰れないように光を抑えたのです。」
「それより昨日の事だけど、俺達どうすればいいのか思い出せないけど、
何処かに行かなけりゃいけないんだろ?」
シュールが精霊を覗き込んで聞くと
「思い出せなくて当然です。精霊の記憶をいっぺんに思い出したら、人間は焼けこげてしまうわ。
まずは私をある場所に連れて行って下さい。
必要な時には自分でも気付かない内に正しい判断ができる筈です。
浄化された場所を見つけたら、箱を開けて私を呼んで下さい。
あなた達の力になれる事があるかも知れないわ。」
「ある場所って?」
「私が力を取り戻す為に必要な、古の力が働く光に溢れた場所、今はどこにあるか分かりませんが、 心配しなくても大丈夫。着けば分かります。」
「ちぇ、勝手な事言う精霊だぜ。」
「私は精霊力が落ちているので、長い時・・間人間界に留・・・・まる・・事は出来ま・・せん。
もう・・・」
「あっ!消えちゃった。」
「全然役にたたないじゃないか。なんで俺達が精霊を運ぶ為に旅しなきゃならないんだ、全く。
第一、光に溢れた場所ってなんだよ。どっち向いて進めばいいってんだ?」
「どっちって、船がないんだから東に行くしかないよ、シュール。」
「そうだけど、ただ闇雲に東に行ったってなぁ。
でもまあいいや、どうせ家族もいないし、当分は村にいても楽しくはなさそうだしな。
よし、帰ってすぐに支度しよう。今日中に村を出るだろ?」
「うん、でも行く前にサイナに会って行きたいな。」
「じゃ、支度してから村長の家に行こう。」
村長の家に着くと、村長婦人のジュラが泣き出しそうな顔で出迎える。
村人達が2人をどううわさしているか知っているのだろう。
人のいいジュラは、まるで世の中の悪いことはすべて自分のせいであるかの様に、
うなだれていた。
・・・気にしなくていいよ。あなたが悪いんじゃないんだから。・・・
と言ってあげたいくらい気落ちしている。
ジュラは村長のところへ2人をつれていくと、
「食事を作るから食べていって。」
とアビの手を取り、せめてもの償いといった表情で励ますように力を込めた。
応接間の扉を開けると村長が暖炉の前に渋い顔つきで立っている。 口を開こうとするシュールを制したアビは、自分に話させて欲しいと小声で言うと、 村長に昨日の出来事を事細かに説明し始め、シュールと村長は黙って聞いていた。
説明には小一時間かかり、アビが話し終えるとしばらくは沈黙が続いた。
「昨日の午後、山の上で光ったのは、精霊の杖じゃったと言うんじゃな?」
村長がやっと口を開く。
「はい、信じてもらえなくても仕方ありません。僕達だってまだ信じられないもの。 でも、本当のことです。これがその時の銀の箱です。浄化された場所でしか、 開くことは出来ないって精霊は言ってました。」
「わしはお前の話が嘘だなどとは思うとらん。魔物がこんなにいるんじゃ。 精霊がいたっておかしくはなかろう。じゃが、嘘だと思う者もいる。それは仕方のないことじゃ。 お前達が世界を救う運命だと言うのなら、行かねばなるまい。」
アビの頬にさっと赤みがさした。
「その事は僕だって信じてるわけじゃないけど。」
「運命なんて関係ないさ。」
シュールがアビの肩をたたくと村長もうなづき、
「そうじゃ、裏山の主討伐の報酬を渡さねばのう。」
と言いながら革袋に入った金貨をアビに手渡した。
「こんなにたくさん?」
「旅に出るのなら金は必要じゃ。」
「ありがとうございます。」
「話せるじいさんだぜ。」
「シュールったら!」
その後、夕食にはまだ早かったが、食堂に案内されるとすごいごちそうだった。 見た事もないような大きなとり肉は、肉汁が滴っていいにおいだ。 デザートのフルーツも甘くて美味しかった。いつも一人で食事をとるアビとシュールは、 初めて食べるごちそうや、まるで本当の家族のように一緒に食事が出来た事に感激し、 ジュラの優しさに感謝せずにはいられなかった。
サイナは怒っているのか、アビと目をあわせようとせず無口になっている。
帰る時になっても、とうとうゆっくり話す事が出来なくてアビが困っているのを察して、
ジュラはサイナに諭すように言う。
「いつまでもふくれてないで、アビ達を門まで見送っておあげなさい。」
2人は村長とジュラによくお礼を言い頭を下げてから、玄関を出た。
「じゃあなサイナ。アビ、先に行ってるから。」
気を利かせたつもりのシュールが走りさると、やっとサイナが口を開いた。
「なんで行っちゃうの?みんなにいじめられたから?」
「違うよ、サイナ。」
「きっと魔物に殺されて二度と会えないわね。」
サイナはまだふくれている。
「絶対帰ってくるよ。だからこれを預かってて欲しいんだ。」
アビは今まで集めた光らない石ころが入った革袋をサイナに渡し、
「僕の宝物、家に置いといたらおばさんに捨てられちゃうから、
帰ってくるまでサイナに預かってて欲しいんだ。あとこれ、
今までで一番大きい石、おばさんに渡さないで取っといたんだ。これをサイナにあげるよ。」
そういって紅い石を一つサイナの手ににぎらせた。
「じゃあもう行くよ。」
名残惜しくなるのでアビは一気に駆け出した。
「アビ!気をつけてね!」
遠くでサイナの声がした。
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