第1章~旅立ち~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
ププタンの村(7)
気がつくと当たりは真っ暗で、2人とも山の入り口に倒れていた。
最初に気がついたのはシュールだった。
「おい、アビ!しっかりしろ!」
「うぅん。あれ?ここは?」
何がなんだか分からない。今日一日何があったのか思い出すまでには、2人ともかなりの時間がかかった。 何処かへ行かなければいけないような気がするが、それが何処なのか思い出せない。 結局、精霊の杖を見つけたところまでしか、思い出すことは出来なかった。 精霊が頭の中に送ったという映像は、とても大切な事のような気がするのに、ハッキリとしない。 時がくれば思い出すといわれたような気もする。
「村長の所に報告に行かなくちゃいけないよね?」
アビは、どう説明しても信じてもらえないと思いながらつぶやいた。
・・・シュールは多分説明は苦手だ。しかもこんなややこしい話、 最初から全部話したらどれだけ時間がかかるだろう。でも簡潔に要約したら、 誰にも分からないだろうし、シュールは面倒になって細かい説明なんて絶対しないに決まってる。 それにはじめに精霊に会ったのは僕なんだから、やっぱり僕が言わなくちゃいけないんだろうな。 気が重いな。・・・
「そうだな。じゃ、今すぐ行こう。」
シュールは自分がアビから話を聞いた時、とても信じられないと思ったことなんて、
すっかり忘れているようだった。
村長の家に着くと、みんな応接間に集まってアビ達を待っていた。
「遅かったじゃないか。調べに行っただけの筈が帰ってこないから、
化け物に喰われちまったのかって心配したぞ。」
ダリルだった。見に行きたくても、村をからっぽにする訳にも行かず、
動きがとれないままイライラしていたのだろう。
「まさか。それに、裏山の主は化け物なんかじゃなかったぜ。」
シュールが得意気にそう言うと、集まっていた大人達はざわめいた。
・・・あ~ぁ、シュールったらいきなりそんな切り出し方して。・・・
「座ってゆっくり話を聞こう。さあみんな、落ち着いて座りなさい。」
村長がみんなを制してシュールに向き直り、じっくりと話を聞く姿勢をとった。
「裏山の主は、封印された光の精霊だったんだ。俺達は精霊の封印を解くために、
裏山の頂上までのぼって精霊の杖を見つけ、精霊は、俺達2人は世界を救う運命だって言い残して、
消えた。杖の光で山の魔物もみんな消えたし、しばらくは安全だぜ。
じゃ、そういうことで俺達は疲れたからかえって寝るわ。みんなももう集まってなくても大丈夫だぜ。
アビ、帰ろう。じゃぁな。」
ポカンとしている村人達なんかお構い無しに、シュールはさっさと部屋を出って行ったので、 アビも慌てて後を追った。村長の家に着くまでの間、なんて説明するかずっと頭の中で反芻していたアビは、 あまりに簡単なシュールの説明に、やっぱり思った通りだったとため息をついた。 あんな説明で大人達が納得する筈がないのに、シュールは全然気にしていなかった。
家に着いたアビは、待っていたおばさんから質問攻撃にあったが、今日は疲れているからと、
屋根裏の自分の部屋に逃げ込んだ。なんだかすごく疲れていて、
あっという間に眠りに落ちていった。
次の日目を醒ますと、もうとっくにお昼をまわっている。疲れ切ってぐっすりと眠ってしまったらしい。
ハンターはどんな時でも、神経を研ぎすましておかなければならない。
何故なら、魔物がうようよしている森の中で、夜を明かさなければならない時もあるからだ。
それなのに今日は、おばさんが店に出かけた音にも気付かない程、深い眠りに落ちていた。
・・・遅くなっちゃったけど、とりあえず村長の所に、詳しい説明に行かないと。 シュールは昨日のあれで、もう説明は終わりだと思ってるだろうしな。・・・
アビは服を着替えて、パンを一つかじりながら村長の家に向かって歩き始めた。
ちょっと歩くと、ローデンのおばさんがファーと一緒に歩いてくるのに出くわした。
「こんにちは、ローデンさん。ファーはもう元気になったの?」
アビが声をかけると、ローデン夫人は目を合わせず、ファーを引っ張って小走りに行ってしまった。
・・・あれ?どうしたんだろう?・・・
途中で何人かの村人たちに出会ったが、みんな妙によそよそしい。
あいさつをしても、返事をしてくれる人はいなかった。
「いてっ!」
後ろから何か堅い物が飛んで来て、アビの背中に当たったので、
振り返ると悪ガキのチャン達が走って逃げていくのが見えた。逃げながら
「アビの嘘つき、気狂い、バ~カ!!」
と叫んで笑っている。
「・・・。」
飛んできたのは大きな石で、ぶつかった背中はジーンと痛かった。
アビは腹立たしい思いでいっぱいになり、村長の家に行くのを止め、
シュールの家に向かって走り出した。
昨日の夜村長の家でアビ達の報告を聞いたのは、村の中心となる代表的な大人達だった。
それが昨日の今日で、あんな子供まで自分を嘘つき呼ばわりしている。
一体、誰がどう報告するとああなるんだろう。
信じないまでも、もう一度詳しく話を聞くとか、当分の間村人には伏せておいて再調査をするとか、
大人として良識ある判断が出来ないものだろうか。
シュールの家に着いた時には、悔し涙で顔中ぐちゃぐちゃだった。
「シュール!!開けてよ。」
アビはシュールの家の扉を思いっきり叩きながら叫んでいた。
眠っていたところを叩き起こされたシュールは、多少不機嫌な様子でアビの訴えを聞いていたが、
やがて頭がはっきりしてくると、遅い朝食のために黙ってミルクを湧かしはじめた。
シュールは、ハンターのくせに寝起きが悪い。
興奮していたアビは、はじめはシュールの機嫌なんてお構い無しだったが、暫くすると冷静になってきて、
シュールが眠っていたところを起こされて怒っているのかと、
そちらの方が気になり出してとうとう黙ってしまった。
「やっと落ち着いたか?」
あたためたミルクと堅くなったパンをテーブルに置くとシュールが初めて口を開いた。
「起こしてごめんね。」
アビは、坐ってシュールが入れてくれたミルクのカップに両手を添えながらうつむいている。
「パンも喰うか?」
目の前に腰をおろして堅いパンにかじり付くシュールに、アビは黙って首を横にふった。
シュールがあまりに冷静で、アビの言ったことを全く気にしていない様子なので、
なんでこんなに興奮していたのかわからなくなる。
・・・これじゃあ、なんだかどうでもいい事で、シュールに迷惑かけただけみたいじゃないか・・・
「シュール、僕の話ちゃんと聞いてた?」
「ちゃんと聞いてた。」
シュールがぶっきらぼうに答える。
「腹がたたないの?」
「別に。」
「なんで!?チャンに石をぶつけられたんだよ?ファーのお母さんにまで無視されたんだよ?」
「俺達は嘘は言っていない。いつかわかるさ。」
「そんなのんきな事言って!」
「そんなことよりもっと大事な話がある。俺達何処かへいかなけりゃならなかった筈だ。
けど、何処だったか思い出せない。もう一度精霊に会いに行って確かめるべきじゃないか?」
「うん。それはそうだけど。」
「今からもう一度裏山に行ってみないか?」
「今から?」
確かにとても大事な何かを忘れているような気がする。
・・・何処かへ旅立つ?生まれ育ったこの街を離れて?でも何処へ?何のために?・・・
分からない事だらけだったが、旅立たなければいけないと云う確信だけは、あった。
・・・そうか、みんなに嘘つきだと思われたって、無視されたって関係ないんだ。
僕達はどうせこの村を出ていかなくちゃいけないんだもの・・・
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