オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語

銀の騎士本編

第3章~危機~

オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語

再びコーリット城(5)

雨は毎日のように降っていた。打ち付ける力を持たない、霧のように細かい雨だ。
シュール達が帰って来たのも、出発してから二ヶ月以上たったそんな雨の日だった。
歳月とは不思議なものだ。あんなに心を失っていたチチも今ではきちんと食事も取るし、ときどきは笑顔を見せるまでになっていた。
「シュール、半月くらいの道のりだって聞いてたのに、二ヶ月もどうしたの?心配したよ。」
「ちょっとな、まあその話はまた後で。」
「なんだよそれ。」
アビは女の子のような膨れっ面である。先に薬師を連れて帰って来た騎士達に、シュールとザトーが先読みの里に残ったと聞かされ、どんなに心配した事だろう。騎士達もシュールが残った詳しい事情を話してくれなかったし、いつ帰って来るのか聞いても首をかしげるだけだった。シュールが帰って来ない恐怖を二ヶ月も味わったのだ。少しは怒りたくもなるだろう。

「いやそれより、アビもすっかり元気になったみたいで良かった。」
しかしシュールはアビの文句を意に介さず、急くような気持ちでそう答えた。
「もう、いつでも氷の洞くつに行けるよ。」

アビは真剣な面持ちになって、今までの訓練の成果を見せるように、左手を振り上げる。シュールも黙ってうなずく。 この二ヶ月間シュールの心を占めていたのも、やはり氷の洞くつに行く事だけだったからだ。二人はお互いの表情に相手のかたい決意を見て取った。

「遅くなったかわりにいいものを手に入れて来たぜ。」

シュールが自分の革袋から取り出して見せたのは、変な形の道具三つと小さいつぼが一つ。

「何それ?」
「先読みの一族の長に貰ったんだ。こっちは魔物を眠らせる為の粉。」

そう言ってシュールがつぼをアビに渡す。

「長が魔法をかけてくれたんだ。でも、魔物だけじゃなく味方にも効いちまうってさ。」
「それじゃあ使えないじゃないか。」
「だから、これよ。」
シュールは変な形の道具を一つ一つアビに手渡していく。

「これは眠りの粉を防ぐ為のマスク。有名な道具職人がつくって長が魔法をかけた特別製だぜ。万が一の時はこれを使う。」

シュールは万が一と言う所に力を込めた。これを使うような状況にならなければいい、という事だろうか。しかしアビにはその事よりもマスクの数が気になった。
「三つ?」
「ああ、もっと欲しかったが一個つくるのに半月かかるんだとさ。これ以上待ってられないから三つしかない。」

誰が使う為の三つなのだろう。二つなら分かる。アビと、そしてシュール。二人は絶対に氷の洞くつに行くつもりだ。だが、もう一人は?シュールは誰を考えて三つのマスクを手に入れて来たのだろう。
「僕とシュールと・・・チチ?」
アビはおずおずと聞いた。
「まさか!チチは連れていけないだろ。ザトーが行くって言ってる。」
ザトーが一緒に行ってくれるなら、そんなに頼もしい事はない。だが、アビの頭に、初めて会った時「精霊様に言われたので一緒に行きます。」と言ったチチの顔がちらついて離れない。

「チチは行きたいんじゃないかな?」

アビがポツリと言う。自分では、そんな事を言うつもりは全くなかったのに。
「だからってこの前の人数であれだけ苦戦したんだ。今度は三人しか行けないんだから生きて帰れないかも知れない。チチは連れてけないだろ?眠りの粉だって万能とは限らないしな。」
シュールは諭すように言う。

「そっか。」

頭ではわかっている。シュールの言う通りだ。
でも何となくスッキリしない気持ちなのだ。
アビの返事の端切れが悪いので、シュールは尚も続けた。

「それにな、他にまだどんな仕掛けがあるとも分からないんだぜ。チチを死なせる訳にはいかないだろ?」
「そうだね。」
「なんだよ。不満そうだな。チチと一緒に行きたいのか?」
「ち、違うよ。ただ・・・」
アビは言葉を飲み込んだ。

ただ?
ただ、なんだ?
何を言おうとした?
僕に何かを言う資格があるのか?
ない。

シェーラが死んだのは誰のせいだ?

僕。

チチを独りぼっちにしたのは誰だ?

僕。

「おい!アビ!どうした!」
シュールに肩を揺さぶられてハッと我にかえる。
・・・あれ?いま僕何してたんだっけ?・・・

「大丈夫か?青い顔して。まだどっか具合悪いのか?」
「ううん。すっかり元気だよ。でもなんだか時々ぼーっとしちゃうんだ。身体がなまってるのかな?」
アビが言ったのは本当の事だ。シュールを待つ長かった二ヶ月、何度もボーッとしてはアミューや、城の騎士達に心配された。自分ではボーッとしていた間の事は覚えていない。何を考えていたのか、何をしていたのか、前後の記憶も曖昧になっている。でも、身体がつらいという訳ではなかった。

「病気じゃないんだな?」

シュールがもう一度確認したので、アビは思いきり首をたてに降った。
するとシュールは少し安心したような揺るんだ表情になる。
「なんだ。それならすぐに出発しよう。」
アビはモヤモヤする頭を激しく振って、気を取り直した。

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