オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語

銀の騎士続編

第1章~予兆~

オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語

(2)

意識の波が行きつ戻りつしている間、あらゆるものが自分目掛けてすごい速度で飛んで来た。避けようとするが、少しでも頭を動かすとあちらの世界に引きずり込まれそうになるので、せめて目を閉じる。

”あちらの世界って何だ!? なぜこんなに身体が重いんだ!?”

問いかけても誰も答えてくれず、魔物やら女の子やら、少年やらばあさんやらが、突っ込んで来る。避けられないはずなのに、それらは不思議とぶつかっては来なかった。目を閉じている間に進行方向を変えるのかも知れない。

飛んで来るもの達は知っている顔のようでもあり、全く知らない者のようでもあった。

”ここは一体どこなんだ!? なんで俺はここにいるんだ!?”

目を閉じているはずなのに、まだ何か飛んで来るのが見える。

”夢なら早く醒めてくれ!”

切実にそう思った。
誰かの声が聞こえる。聞き覚えのあるような声だが、誰なのか思い出せない。

”そもそも、俺は一体誰なんだ!?”

懸命に目を開けようとすると、女の子の顔がグルグルまわりながら飛んで来た。さっきからの色々な飛来物は消えうせ、同じ女の子の顔が、大きくなったり小さくなったりしながら、頭のまわりをまわっている。

そのうちそれが、かすかに聞こえて来る声の主だとわかった。

「シュール! 目を開けて! 今、目を開けたでしょ? もう一度がんばって目を開けて!」

次第に女の子の声がハッキリ聞こえるようになって来た。力を振り絞って目をあけると、彼女はもう、まわっていない事がわかった。かわいらしい小さな女の子が幾重にも重なって見えた。
何度かまばたきをする。

心配そうに覗き込む大きな真ん丸の瞳をした女の子が、今度ははっきりとした輪郭でそこにいた。淡い栗色の髪をゆったりとひとつに編んで、うす紅色の上等なドレスを着ている、知らない女の子だ。

「シュール。よかった。よかった」

女の子は目を潤ませてそう言った。

「シュール?」

聞き覚えのない名前だった。自分の事をシュールと呼ぶ見知らぬ女の子同様、なじみのない名前だ。

「……あんた、誰だ? シュールって俺の事なのか? ここはどこなんだ? 何で俺は自分の名前もわからないんだ!」

大きな目を更に大きく見開いて、少女が言った。

「誰だって……私を忘れたの!? 一緒に旅して来たじゃない。チチよ。思い出してよ、シュール!!」

チチは泣き出した。シュールが目を覚ましてホッとした事も手伝って、緊張の糸が一気にほぐれたのだ。そして思った。あんな目にあったのだから、一時的に記憶が曖昧になっていてもおかしくはないと。すぐに、思い出すはずだ。十分に栄養と休養さえ取れば。

「シュール、とにかく何か食べて。今持って来るから」

バタバタと慌ただしく少女が出ていった後、部屋は静寂に包まれた。

見覚えのない部屋。白い天井に施された金の装飾。花の絵が描かれた白い上等な家具達。明るい光の差し込む大きな窓。窓の外に見える木立。どれをとっても自分にかかわりのあるものとは思えない。

ベッドは二度と起きあがれないと思わせるほど、ふかふかしている。身体に掛けられている光沢のある布は、滑らかな手触りだった。

シュールは起き上がろうとしたが、すんなりとはいかなかった。身体中あちこちが痛み思うように動かせないし、ふかふかすぎるベッドが、どうしても彼をここに縛り付けたい、とでも言うように身動きを封じている。

やっとの思いで手を付いて腰を浮かせ、上体を起こすとベッドヘッドに寄り掛かった。
そして、自分の腕の細さに驚いた。

手をじっと見ていると、チチがいい匂いと共に戻って来て、微笑みかけた。
どこかぎこちない笑みだった。

「チチ特製薬草スープよ」

差し出されたトレイの上には、パンと薬草スープの白いボール、大きなスプーンと果物が乗っていた。スープは香辛料の刺激的な匂いがして、シュールは自分が猛烈に腹をすかせていた事に気が付いた。

スプーンを使わず、ボールを直接口に運ぶと、のどに熱い液体が流れ込んで来て、腹まで伝わって行くのがわかった。そして残りを一気に飲み干した。それからパンにかじり付き三口で平らげてから、柔らかく甘いぶどうを皮ごとのみ込んだ。

味などよくわからなかった。でも今一番求めていたのはこれだ、食べ物だと思った。
あっという間にトレイはからっぽになっていた。

「もっと食べられる?」

あっけに取られて佇んでいたチチが、所在なさ気に使わなかったスプーンを弄ぶシュールを覗き込み、シュールは答える代わりに首を縦に振った。

今度は戻って来るのが遅かった。腹が減っているからそう感じるのかも知れなかった。ずっと病気か何かで意識を失い、何も食べていなかったのだろうと想像したが、自分が病気にかかるいうのはピンと来なかった。ならば怪我かと思って、身体中見回したが、小さな擦り傷以外何も見つける事は出来なかった。なんとなく、鏡を見たくなって部屋中見回したが、鏡も見つからなかった。

”俺はどんな顔をしているんだ!?”

予想に反した細い腕を見たら不安な気持ちになったのだ。鏡の中に自分のものだと思える顔が映るのかどうか、すぐに知りたくなったが、力が入らず立ち上がれなかった。

次へ
MENU
オンライン小説
銀の騎士本編
銀の騎士続編
オンライン小説
銀の騎士外伝-金の王子-
銀の騎士外伝-ショート-
オンライン小説付随Menu
読者様のご感想
世界地図
読者様イラスト
プライベート
お役立ちリンク
人魚姫
ミーチャの出版物