第2章~集い~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
(2)
小さな瞳が真直ぐに自分を見つめている。
何も要求せず、ただじっと指示されるのを待っている。
肩までの黒髪は、その瞳と同じ漆黒の闇。
病的に白い肌は北国生まれの証拠だ。
十才にしては華奢とも思える長い手足。
どれをとっても子供らしいところは一つもない。
大人びたさめた視線を受け止めるのは、ラステカといえども少々辛かった。
生まれてすぐに母親と引き離し、ここロールに連れて来られた時期長候補の赤子は、まず村の乳飲み子のいる女性を乳母として育つ。しかし、それは普通の子供の育てられ方とは、全く違っていた。
一族の未来の担い手として、言葉を覚える前に、一つでも多くの魔法言語を習得する必要がある時期長候補の赤子は、三才まで一切の言葉を遠ざけ、子守唄のかわりに魔法言語だけを来る日も来る日も聞かされ続ける。魔法言語より先に、話し言葉を頭に入れてしまうと、精霊力を操る力が弱まるとされているからだ。だから一般に、時期長候補の子供は、言葉を覚えるのが遅くなる。
三才まで育つ部屋は、長によって強力に守護されている。
訳も分からず赤子が発した魔法言語が、とんでもない効果を持つ事もあるからだ。
その部屋に、乳母と長以外入る事が出来るのは、長が選んだ謳い手だけだ。もちろん乳母は一言も発してはならない。長が厳選した”言葉”の持ち主は、毎日魔法言語で綴られた詩歌を謳う。それが赤子の子守唄となる。
魔法言語は、先読みの一族にしか聞こえない波長を持っており、呪文の詠唱は普通の人間には聞き取れない。この発音をどれだけ習得出来るかで、より高い魔法を使えるかどうかが決まるのだ。そして発音は八才過ぎてからいくら聞いても、決して習得出来ない。だから、時期長候補のみならず、すべての一族の子供は、五才になるとロールの村にある魔法学校に集められるのだった。
「次は剣に護りの力をこめる訓練をする」
ラステカはじっと見つめる双の瞳を見返して厳かに言った。
「はい」
アルビンからは「はい」以外の言葉を聞いた事がない。無駄な事は一切話さない。いくら言葉を覚えるのが三才以降だといっても、ファージなどはよく子供らしい質問をしたものだが。
ラステカは深い溜め息をついた。どんなに待たせても、そわそわする事もなくじっと長の言葉を待っている。決して「まだですか」とか「早くやってみたい」などと言わない模範的な生徒だった。が、ラステカにはかえってそれが心配だった。
「まず、自分で考えた方法でやってみなさい」
ラステカはアルビンがどう反応するか見たかった。しかし答えは「はい」だったのだ。
礼儀正しく礼をして、アルビンは剣を抜いた。目を閉じて、魔法の詠唱に入る。それは先日教えたばかりの、自分の身を護る為の”言葉”だった。
アルビンの”言葉”は鋭利で激しい。謳い手は穏やかな者を選んだはずだった。しかし、覚えた言葉を操るのは、あくまでもアルビンだ。アルビンが決しておとなしいだけの子供でない事は、”言葉”を聞けばわかる。内面に秘めた激しさを何とかして表に出せないものだろうか。ラステカは試行錯誤していた。
”言葉”が剣に宿らなかった事はアルビンにもわかったらしく、アルビンは剣を降ろして長の指示を待った。
「なぜ今の呪文ではうまくいかなかったかわかるか」
アルビンは黙って首を横に振った。
「言葉は自分に向けられている。剣に向けて発する為には」
「・・・・・」
ラステカは剣に護りをこめる呪文を詠唱した。
「と変えなければならない。もう一度やってみなさい」
「はい」
アルビンは再び剣を抜き、剣先を天に向けて目を閉じた。
「・・・・・」
剣が光り輝きはじめる。暖かい空気が当たりを満たした。
成功だった。
アルビンは何でも一度で覚えた。だが、子供らしく嬉しそうな顔はしない。無表情だった。嬉しいかと聞くとやはり「はい」と答えるが、「どう思うか」聞くと「わかりません」と返って来る。
仕方なくラステカは次の指示を待つアルビンに課題を出した。
「今新しい魔法が成功した時の気持ちを、言葉に出来たらわしの部屋へ来なさい。
わかるまで次の訓練はない」
ラステカはアルビンをその場に残したまま、自室に戻った。そして、座り慣れた大きな皮張りの椅子に深く腰を降ろした。ゆっくりと背もたれに身体を預けると、気持ちのよい眠りがやってきた。
”アルビンが自分の気持ちを見つけられるまで、しばしかかるだろう。それまでゆっくり休むとしよう”
すぐに椅子がラステカの重みを吸収し、深い眠りへと誘った。
コンコン。
扉を叩く音に目覚める。
「入れ」
すぐに身を起こして、ラステカは言った。
「失礼いたします」
扉を開けて入って来たのは、背の高い黒髪の青年だった。
ラステカはしばし時の狭間で行きつ戻りつし、次第にはっきりして来た頭を軽く振って笑った。
「夢を見ていた。お前の小さな頃の夢を」
「それは、予言ですか?」
アルビンが真面目に答える。
「いや、ただの年寄りの懐古だろう」
アルビンがやや微笑んだ。こんな表情が出来るようになったのも、最近の事だった。
ラステカは満足げに頷いて、話を促した。
「カルの村に調査に発ちますので御挨拶を」
「そうか、充分に気をつけよ」
「はい」
アルビンは軽く礼をして扉の向こうに消えた。後に残ったラステカは、今見ていた懐かしい夢が、本当に何かの予言ではなかったか探るように目を閉じた。
オンライン小説「銀の騎士」は、剣と魔法のファンタジー物語「KNIGHT OF SILVER」を前身とするオンライン小説サイトです
©1999- オンライン小説All Right Reserved.