第1章~旅立ち~
ププタンの村(4)
大人達が会議をしているのは1階の応接間だった。部屋の前に立つと改めて緊張し震えが止まらなくなる。 腕をあげてドアノブを握る事ができない。どうしたっていうんだ。 それを見ていたジュラが、気の毒そうにアビの背中をさすった。
「無理しなくていいのよ。あなたはまだ子供なんだから。嫌な事は嫌と言っていいのよ。
命を無駄にしないでね。断ったからって男らしくないなんて思ったらダメよ。」
ジュラはアビを抱き締めた。
・・・ああ、やっぱり裏山の主を倒しに行くんだ。ハンターとしての初仕事だ!・・・
そう思うと見る見ると力が湧いてくるような気がする。
「ジュラ。大丈夫!僕、嬉しいんだ。心配しないで。」
震えは止まった。そしてアビは元気よくドアをあけた。
村長のガイジャを囲んで6人の大人達が集まっている。
ガイジャが立ち上がってアビを空いていた椅子に促したので、ちょっとためらいながら、
その椅子に浅く腰掛けた。
「アビ、最初から呼ばんで悪かったな。」
「いいえ、村長。サイナにも会いたかったからいいんです。」
「そうか、サイナから話は聞いたかの?」
「はい。だいたいは。誰かが裏山の主を倒さないといけないんでしょ?」
「ふむ、今回は大仕事じゃ。一人で裏山の主に挑むのは無理じゃろう。
かといって、村にハンターは3人きりじゃ。3人とも出てしまっては村の守りが困る。
ここは1人が村に残り2人が裏山に行くか、もしくは隣村に応援を頼むか、
その2つしか方法はないじゃろう。アビ、お前はどうするのが村の為に一番いいと思う?」
アビを試しているかのように、そこにいる全員が意地悪そうな眼でアビを見つめている、 とアビは思った。本当にこんな子供が役に立つのか、と訝しんでいる眼だ。 アビは大人達に顔を順番に目を移した。
ダリル、武器屋のおやじ、村長、ファーのお父さんとお母さん、宿屋のおかみさん、 そして、シュールと眼が会った時アビはやっと口を開く事が出来た。 シュールは信じてくれている、そう確信できた。
「隣村に借りを作るのは得策ではありません。 そして村を一人で守れるのはダリルしかいないいでしょう。 シュールと僕が裏山に行きます。念のため、はじめは調査のためだけに裏山に入り、 その後作戦を練って慎重に挑むのが一番いいでしょう。」
自分でもびっくりする程よどみなく言葉が滑り出た。その事でアビに自信がついたので、 大人達のアビを見る眼も変わったように見える。
「ふむ、正論じゃ。アビ、知らない間にすっかり成長したのう。
アビの言うとおりじゃ。みなはどうじゃな?」
大人達は黙ってうなづいた。
「やったな!やっとみんなお前をハンターとして認めたんだ!」
村長の家を出ると、浮かれた調子でシュールがアビの背中をたたく。
「うん、かんばらなくちゃね。」
ダリルからファーを見つけた場所を聞いて地図にマーキングした2人は、
とりあえず、ファーの話を聞きに行く事にした。もうお昼過ぎだ。ファーも落ち着いただろう。
ダリルも主の姿は見ていないと言っていた。
ダリルがファーを見つけた時には周りは誰もいなかったが、封印の石碑が倒れていたので、
裏山の主が復活してしまったと思ったらしい。
ファーの両親、ローデン夫妻や他の大人達は、 まだ村長の家に残って村の守りについて話し合っていたので、 ファーの家はファーとおばあちゃんだけである。 ローデン家に着いた2人が事情を話すと、ファーのおばあちゃんは2人を家に招き入れ、 パンとスープだけの軽い昼食を出してくれた。
「家のファーのせいでこんな事になって、すまないね。あんたらだってまだ子供なのに。
ファーを起こしてくる間、せめて食事でもしてておくれ。私にはこんな事しかできないからね。」
「ありがとう、おばあちゃん。いただきます。」
実は2人とも朝食をとっていなくて、とてもお腹がすいていたので御飯を出してもらってとても嬉しかった。 2人はあっという間にパン2個とスープを平らげた。 おばあちゃんがファーをつれて2階から降りて来た時には、2人の皿はすっかり空っぽだった。
「おやおや、ずいぶんお腹がすいていたんだね。おかわりをあげようね。」
おばあちゃんが今と同じ量の食事をもう一度出してくれたので、パンをちぎりながらファーに話を聞いた。
ファーは8才だったが、大事に育てられていたので年よりも幼く見える。
「何で裏山に行ったの?ファー。」
「裏山の主を倒して来るって、チャンと約束しちゃったんだもん。だから裏山に行って・・・。
封印の石をどけようと思ったけど重くて全然動かなかったんだ。」
「そこに行く前に魔物が出たらどうするのさ!食べられちゃうんだぞ。」
アビは呆れて言った。
「そんなのこれでやっつけるよ。」
ファーが出したのはおもちゃの剣だった。
アビがファーの年の時はもう狩りに行っていたっていうのに。
「それからどうしたの?」
「封印の石が動かないから、これで斬り付けたんだ。そしたら石が割れてすごい光が出て来て、
地面がひっくり返ったかと思うくらいの地震が来たんだよ。」
ファーの剣は刃がなくて、とても石が壊れるようなものではなかった。
「それから?」
「それだけ。後は良く覚えてないよ。死んだかと思ったけど、
気が着いたらダリルにおんぶされてたんだもん。」
「裏山の主の姿は見てないんだね?」
ファーはしばらく考えて得意げに答えた。
「見たよ。頭が3つあって、白くて大きくて、しっぽが長かった。」
・・・うそだな。結局誰も見てないんだ。...
2人はおばあちゃんにお礼を言って、ファーの家を出た。
・・・何で石は割れたんだろう。・・・
手がかりは何もなかったが、シュールは全然気にしていない。
「なあアビ、調査はいいから早く裏山に入ろうぜ。」
2人はそれぞれ支度をして、明日の朝五時に村の入り口で落ち合う事にした。
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