第1章~旅立ち~
ププタンの村(5)
次の朝、おばさんにお弁当のパンを6個、水の筒と一緒に袋につめてもらい、
予備の短剣と地図、薬草、毒消し、たいまつなどを愛用の鞄に入れて背負ったアビは、
元気よく家を出た。
「充分気をつけるんだよ。お前はまだ未熟なんだから。」
おばさんが見送ってくれたのなんて初めてだ。アビは嬉しくなって走りながら振り返って手をふった。
村の入り口まで一気に走って行くとシュールはまだ来ていない。
・・・ちょっと早かったかな?でも昨日は興奮して全然眠れなかったのに、頭が冴えざえとしている。
今日からは本当に、一人前のハンターなんだ。だって仕事を依頼されたんだから・・・
「早いな、アビ。」
すぐにシュールが走ってやって来た。眼が輝いている。これから向かうのは本当に恐ろしく、
とてもかなわないような魔物の住処かも知れないのに、
なぜかうきうきして2人とも全く恐れていなかった。
「おはよう、シュール。さあ行こう!」
「何浮かれてんだ?遊びに行くんじゃないぞ。」
シュールが悪戯っぽく笑う。
「そっちこそ。」
2人ともまだまだ子供だった。
封印の石碑は裏山の入り口から少しだけ登った所にあったので、比較的魔物にも会わず、
安全に行ける場所だと言えた。だから、村の老人の中には、お供物をしにくる者もあった。
多分ファーのおばあちゃんもその1人だったのだろう。時々はファーを連れて来たのかも知れない。
そうでなければ、ファーが1人でここまで来れる筈がない。
山の入り口に着くと2人は周辺を丹念に調べた。別に怪しい様子はない。魔物も出て来ない。 封印の石碑がある場所にはすぐに着いた。 石は倒れてはいたが、割れているわけではなかった。石の下には穴もない。 これと言って調べるところは何もない。
「どうする?何にもないよ。」
「とりあえず、この封印の石を村に持って帰って、なんて書いてあるのか村長に読んでもらおう。」
と、シュールが近付いて持ち上げようと手を触れた瞬間、石は突然凄まじい光を放ち、
シュールを跳ね飛ばした。
「わぁ~。」
「シュール!!」
駆け寄るとシュールは気を失っている。
「しっかりして!シュール!」
そうしている間に光は、形をとりはじめる。
・・・まずい!この光が裏山の主なんだ!このままじゃ戦えない。・・・
アビは、シュールを引きずってとにかく逃げようと思ったが、シュールが意外に重く、
なかなか思うように動かない。
「シュール!!シュール!!気がついて!」
光はますますハッキリと人形をとりはじめている。シュールを置いて逃げるわけには行かない。
「シュール!!シュール!!逃げないと!」
その時、光が一層まばゆく煌めいて、目の前が真っ白になり何も見えなくなった。
「ああ、目が・・・。シュール!!!!」
そのうちだんだん光が落ち着いてきたが、まだ目は見えない。
・・・どうなってるんだ?何が起きたんだ?それとももう死んだのか!?・・・
「シュール!起きてよ。目が見えないんだ。」
アビはもう逃げる方向もわからなかった。
「逃げなくてもいいわ。私はあなた方に危害を加える者ではありません。」
鈴の音のように涼し気な美しい声が聞こえてくる。
・・・なんだろう?ここはもう天国かな?・・・
光は徐々におさまって、アビの目も少しづつ慣れてくるとぼんやりと人のような形が見える。
「僕達を食べないの?」
アビはその柔らかく優しい光に居心地よく身をゆだね、逃げる事を忘れていた。
「私は光の精霊です。人を食べたりしないわ。」
「あなたは裏山の主じゃないの?」
「ププタン村の人はそう呼んでいる様です。」
「じゃあ、200年前村人を食べて、村長に封印されたのは?」
「私がここに閉じ込められたのは正確には99年前です。
ずっと解放してくれる人が来るのを待っていました。
そして、私をここへ閉じ込めたのは、ププタン村の村長ではありません。」
「一体どう言う事?」
アビの目はやっと現実に戻って来て、光の精霊の美しい姿が透けているのが見えた。
それは、夢見るような美しさで、ひとかけらの邪悪さも感じられない。
「人々のうわさはいい加減なものです。」
「僕の目、まだ変なのかな?あなたの姿が透けて見えるよ?」
「私達精霊に実体はありません。そして、人間には私達の姿は見えません。
私達の姿が見えるのは、選ばれた人間、この世界が滅びようとする時に、
世界を救うべく運命付けられた人間だけです。623年前の銀の騎士のように・・・。」
「銀の騎士の伝説は本当だったんだね!?」
アビが弾んだ声で聞いたその問いには答えずに、精霊は話を続けた。
「精霊には寿命はありません。でも、100年間暗闇に閉じ込められると精霊の力を失い、
消滅してしまうのです。私は99年間助けを呼び続け、昨日やっと小さな子供がやって来て
私が封印の石をはね除ける手助けをしてくれたのです。でも完全に自由の身には、なれませんでした。
子供がひどく怯えていたからです。私は子供に語りかけましたが、
子供の耳には届かなかったようです。」
「今は?自由の身になれたの?」
「いいえ。私を完全に解放するためには、この山の頂上に封印された私の杖が必要です。
あなたは選ばれた運命の子、どうか私の杖をとって来て下さい。自由になれた時、
なぜ私が閉じ込められたのか、あなたがこれからどうすればいいのか、全てお話しましょう。
私の杖をとって来てくれますね?」
「僕が選ばれた人間だっていうのは信じられないけど、杖はとって来るよ。
それより、シュールは大丈夫なの?」
「彼のエネルギーを借りて私はこの姿を保っています。私が消えれば彼は目を醒ますでしょう。」
「あっ!」
・・・まだ聞きたい事があったのに、消えちゃった・・・
「うっ。」
「シュール!気がついた?」
「何が起こったんだ?」
アビはたった今起きた出来事が夢だったように思えて来て、 村の大人達に話しても信じてもらえないような気がしていた。 でもシュールだけはきっと信じてくれるに違いない。
「あのね・・・。」
アビは光の精霊のことを話しはじめた。
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