第2章~出会い~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
まよいの森(3)
「実はあの森に薬師の婆さんと孫娘が住んでる。」
宿屋の1階の酒場の一番奥の暗いテーブルに、大男は乗り出して声をひそめた。
「婆さんは時々村に買い出しに来るらしいが、
とっつかまえて吐かせようと思ってもなぜか会う事すらできねぇ。
俺のにらみじゃどうも村の連中が一枚かんでるな。」
「ホントにそんな婆さん住んでるのか?」
「おおよ。間違いねぇ。しかも俺達は通れねぇまよいの森に、 婆さんは迷わず入って行けて、しかもそこに住んでやがる。 そこで思い付いたわけよ。女子供は行き来出来るんじゃないかってな。 我ながらその閃きの鋭さにゃぁ感動したぜ。早速村の女を連れて森に入ったんだが、 女を連れてった途端、うじゃうじゃと魔物が襲ってきやがって、 結局女が足手まといで進めやしねぇ。そんな事やってるうちにいつの間にか、 入り口まで戻って来ちまった。」
「その閃きとやらが間違ってるんじゃないか?」
「いや、そんなこたぁ絶対ねえよ。病気にかかった子供を連れて村の女が森に入ったって噂もあるしよ。
つまり女子供だけなら通れるってわけだ。噂が本当ならな。
だが、魔物だらけの森に女子供だけで入ったら、あっという間に御陀仏だ。
村の連中はしら切ってやがるし、試しに行ってくれる女なんかいやしねぇ。」
ここで大男は仲間の男達と顔を見合わせ、ひと呼吸於いてから大きく息を吸った。
「そこでだ。」
そう言って大男がテーブルをドンとたたくと、 隣のテーブルで大人しくしていた4人の男達が、薄気味悪い声でひゃっひゃっと笑った。 酒場はまだ開店前で店主がいなかったので、男達は勝手に酒を飲みながら、 ボスらしい大男の話を聞いていたのだった。
「何だよニヤニヤして気持ち悪いな。」
「お前達ハンターって事は、魔物と戦った事もあるだろうな?」
「馬鹿にするな!おれたちは光る石を売って食ってるんだ。」
「魔物と戦える女と子供、うってつけじゃねえか。」
男達がぴゅーぴゅーと口笛をならして騒ぎ始める。
「どこに女がいるんだよ。」
大男はシュールとアビを交互に指差して言った。
「女と、子供。」
「なにぃ!?俺のどこが女だって!?」
「綺麗な顔してるじゃねぇか。女装してもおかしくない程にな。」
シュールがガタっと席を立った。
「ふざけるな!行くぞアビ。」
大男がなだめるようにシュールの腕に手を駆けると、
「さわるな!」
と、シュールがはね除ける。
「まぁそんなに怒るなよ。出来るなら俺達だってやってるさ。
だが見てみろよ。
この中の誰が女装出来るってんだ?気持ち悪い化け物になっちまう。」
「うっ、まぁそうだが
」
想像するとかなり気持ち悪い。
「ねぇ、シュール。僕もいい考えだと思うな。」
今まで黙って聞いていたアビが、ぽつりと言った。
このまま放っておくと又喧嘩が始まりそうだったので。
「何だよアビ、お前まで。女装だぞ!お前だって女装なんてやだろ?」
「でも、この場合仕方ないんじゃないかな?それに僕、シュールの女装見てみたい!」
「わっはっはっはっ、ぼうずは話が分かるな。よし、服はこっちで調達してやる。」
「なっ!まだやるって言ったわけじゃ・・」
大男は豪快にシュールの背中をバシッとたたいて、
「よろしくな、俺はザドーってんだ。こいつらは、アミューと、ジャン、
こっち側にいるのがスーとクロッカだ。」
「よろしくザトー、僕はアビ、こっちはシュールだよ。それに僕は子供じゃない。
13歳だからね。」
「そりゃ失礼したな。んじゃこっちも言わせてもらうが、俺はおじさんじゃないぜ。
まだ29歳だからな。」
「!!」
・・・ダリルより若いなんて思わなかった!50位に見えるのに。・・・
アビは、シュールの耳もとに顔を近付けて小声で言った。
「ねえシュール、恐そうかと思ったけどいい人たちみたいでよかったね。」
「うっ。ほんとに俺がやるのか?女装・・・」
「いつまでもグチグチ言ってねえで腹くくれや!がははは。」
男達の豪快な笑い声に、店主が2階からおりて来て、怪訝な顔をしている。
みんな陽気で楽しい人たちだった。
・・・見かけで決めちゃダメなんだ。・・・
アビは、たちまち人気者になり、みんなに頭を撫でられた。
「ガセネタじゃないだろうな?」
シュールはまだ納得いかないといった風で、ぶつぶつ言っていたが、誰も聞いてはいなかった。
「ほらシュール、そんな顔してたら女の人に見えないよ。にこっとして。」
「
出来るかよ!くっそー!!」
「そんな言葉遣いじゃすぐばれちゃうよ。くすっ。」
「アビ、てめぇ、ひと事だと思って!」
「ひと事だもん。」
よってたかってシュールを女性に仕立て上げ、その出来映えに感心しながら、 もうちょっと紅を塗ったらどうかとか、スカートが短すぎるとか、皆で言いたい放題だ。 シュールももう抵抗するのは諦めて、どうにでもなれとドカッと椅子に腰掛けた。
「さあて、次はアビの番だぜ。」
ザトーがそう言うと、クロッカとスーがほいきたとばかりにアビを押さえ付け、
着ている物を剥ぎ取った。
「うわぁ~!ぼくもなのぉ?子供は大丈夫って言ったじゃないか!」
「おや、おかしい事を言うね、アビ君。君は13歳だからもう子供じゃないって、
さっき自分でそう言ってたじゃないか?皆も聞いたよな?」
シュールががぜん張り切って、からかうように聞くと、全員が口々に、
「言った!言った!」
とさわぎたて、あっという間にアビは、女の子にされてしまった。
「良く似合うわよ、アビちゃん。」
シュールが女言葉で言う。
「こんなちっこい女物の服、手に入れるのに苦労したんだぜ。」
「シュールの大きい方だって苦労したよ。」
「似合ってるからずっとこのまま女装しとけよ。」
男達が勝手な事を言って笑いあった。
「さて、お遊びはここまでだ。シュール、お前は病気の妹を薬師に見せに来た村の娘って設定だ。
途中で地を出して大股歩きしたりするんじゃねぇぞ。」
「魔物が出たらどうすんだよ。」
「あくまでも女らしく、キャーとか言って逃げるんだな。」
「それじゃ、やられちまうよ。」
「そこはそれ、ハンターの腕の見せ所ってとこだろうが。
華麗に逃げつつやっつける、その位の腕はあるんだろ?」
変な理屈であっさり片付けられてしまった。
こうして2人の女装の旅が始まった。
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