第2章~出会い~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
まよいの森(5)
「む?何だこやつらは。」
「村の人じゃないみたいだね、おばあちゃん。」
「こんなに近くに来るまで気配を感じんかった。ただの村人ではあるまい。」
「でも、2人とも女の子だよ。」
「にしては行儀の悪い、何じゃあの走り方は。」
「病気が重くて焦ってるのかも。早く家に入れてあげた方がいいんじゃないの?」
「いや、面白いからもうちと様子を見よう。」
「おばあちゃんたら!」
「あやつら、病気にはとても見えんぞ。おっ、ちっこい方がコケおった。ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ。」
「おばあちゃんてば!」
「むぅ、そなた口うるさいの。死んだ母親そっくりじゃ。」
堅い木の椅子に座って、大きくて透明な水晶玉を覗き込んでいた老婆は、
孫に言われてしぶしぶ結界をとく事にした。
水晶玉に手をかざし何やら真剣に、呪文のような言葉を呟いている。
最後に気合いを入れて、
「やっ!!」
と叫ぶと小さな木の家の扉の前で、ドスンと云う大きな音がした。
「いってぇ。急に何が起きたんだ?」
走っても走っても近付けなかった、森の中の小さな家の扉の前で、
2人はびっくりして当たりを見回した。
「この家どっから現れたんだ?」
アビは、ぶんぶんと首を横にふった。驚いて口もきけない状態だった。 走っていたらいきなり、落とし穴に落ちたみたいな衝撃があって、この家の前にドスン、 しかも上を見上げても、自分達の走っていた路はどこにも見えない。
ギギーと音を立てて、目の前の扉が開き、2人は息を呑んだ。
「あっ。」
「化け物!」
「
誰が化け物じゃ!」
出て来た老婆が持っていた杖でシュールの頭をポカリと叩いた。
「ってぇな、何しやがる!」
「シュール!女の子、女の子。」
アビがシュールの耳もとで言うと、シュールは思い出した様にハッとして立ち上がり、
スカートの土を払ってアビに手を差し伸べた。
「失礼、森の中の魔物と間違えましたわ。それより妹を見ていただきたいの。病気なんですの。」
あんなに厭がっていたにしては、女言葉はうまかった。
「あの、僕、いえ私、えっと・・・。」
言葉につまったアビの足をシュールが陰で蹴飛ばした。
「いたっ!あっ、そうそう痛いんです。胸がとても。」
しばらく2人の様子を見ていた老婆がぽつりと言った。
「
・・・お前達、おかまか?」
「
何だとぉ?好きでこんな格好してる訳じゃねえ。
そもそもてめえが森に変な術かけたりするから・・」
「シュール!」
アビが慌ててシュールの口を塞いだが遅かった。
「何で分かっちゃったんだろう・・・。」
「まあ入れ、チチ、お客人に茶でも入れてお上げ。」
「は~い、おばあちゃん。」
チチと呼ばれた女の子は、アビより少し年下に見える可愛らしい子だった。
「まさか女装してやって来るとはな。」
「俺だって好きでやってるわけじゃねぇよ。くそっ!
ここまでしてやっと辿り着いたんだ。
さっさとここを通しやがれ。」
「お前達、そんななりをしとるがハンターじゃろ?
聖なる石を狙っとる輩を通すわけにはいかんよ。」
「狙ってねぇよ、んなもん。さっさと路をあけてくれよ。」
シュールは、男物の着替えを持って来なかった事をいたく後悔した。
・・・別に、知り合ったばかりのザトー達に義理を立てる必要はないじゃないか。 ここでこの婆さんを縛り上げてでも、自分達さえ通過出来れば後は知った事か! だけどこの格好じゃぁな・・・
「お婆さん、僕達本当に聖なる石を狙ってるんじゃないんです。
お願いだからここを通らせて下さい。」
アビも懸命に懇願したが、老婆は聞く耳を持たなかった。
「ったく、何度言わせんだよ。俺達は幸か不幸か、 光の精霊の命令で世界中を捜し回らなきゃならないんだよ! どこにあるかも分からねぇ光に溢れた場所をな! 通してくれなきゃ困るんだよ。」
シュールが半ば投げやりに吐き捨てるように言うと、 今まで渋い顔で何を言っても相手にしなかった老婆が、 しわしわの顔の中の大きな眼をギョロッとこちらに向けた。
「何だって!?」
「だ~か~ら~!探し物をしてるからここを通りたいんだってばぁ。」
「今、光の精霊と言ったか?」
慌ててアビが口を挟む。
「信じられないでしょうけれど本当なんです。
この銀色の箱の中に光の精霊が居て、僕達に助けを求めてるんです。
お願いですから・・・」
アビが言い終わらないうちに、老婆はアビの手から銀色の小箱を取り上げた。
「何しやがる!!」
取り返そうとするシュールを軽々とかわしながら、老婆は小箱を丹念に調べている。 意外と身が軽いらしい。何度も取り返そうと飛びかかるが1度もかすりもしない。 ややあって、老婆は真剣な顔つきでアビの手に小箱をかえすと、 アビの両肩をガシッと鷲掴みにしてゆっくりと口を開いた。
「この箱をどこで手に入れなさった?」
「ププタン村の裏山です。」
「ふむ、これはまさしく銀騎士の封印の小箱。そう簡単に人間の手に入る物ではない筈じゃ。
この中に精霊様がいらっしゃると言うんじゃな。」
「???」
アビはコクコクとうなづいた。
「本当に精霊様と話をしたんじゃな?」
「はい。」
「だからさっきからそう言ってるだろ?」
「お前は黙っとれ!」
老婆がシュールの頭を持っていた杖でポカリと叩く。
「ってぇな!何すんだよ。
」
シュールの事は相手にせず、老婆は何やら考え込んでいた。
「あの・・」
おずおずと声をかけたアビに、老婆はハッと我に帰った。
「今ここで精霊様を呼び出せるか?そうしたら信じてやらん事もない。」
「でも、この箱は浄化された場所じゃないと開かないんです。精霊がそう言ってました。」
「大丈夫じゃ、この家はわしの結界の中、浄化されたも同然の場所じゃ。」
「ほんとかよ、くそばばぁ。」
「お前はうるさいぞ。」
そう言って、老婆はまたシュールの頭を叩いた。
「くそっ!人の頭を何だと思ってやがる。」
ぶつぶつ言いながら頭を摩るシュールを見て、チチがくすっと笑った。
「それじゃあ箱を開けてみますから、みなさん目をつぶって下さい。」
アビが留め金に手をかけると、カチッという音と共におびただしい光が溢れ出した。
「おお、これはまさしく精霊様の光じゃ。」
老婆は床に頭を擦り付けた。
「おい、この婆さんがここ通してくれないんだ。何とかしてくれよ。精霊さんよ。」
「こりゃ!精霊様になんて口を聞く!」
またもやシュールは頭を叩かれた。
「くそ!いいかげんにしろよ、ばばぁ。」
「シュール、おやめなさい。その者は、過ぎし日に私が精霊力を分けし人間
~銀の髪の美しい騎士~の末裔です。」
「え~!!このばばぁが!?」
「ポカッ!」
「
くそっ。」
「シェーラよ、顔をお上げなさい。」
「おお、精霊様にお声をかけていただけるとは。」
「私の姿が見えますか?」
「光の固まりが見えまする。」
「おばあちゃん、私、精霊様の綺麗な姿がハッキリ見えるよ。」
「何と、チチが!」
「チチ、私の姿が見えるという事は、あなたにも過酷な運命が待ち受けているという事です。
この者たちと一緒に、私の力を取り戻す為に行きなさい。」
「え、でも、おばあちゃんは?」
「シェーラには違う役目があります。あなたが守っている氷の洞くつに、おそらくは精霊が封印されています。 聖なる石と呼ばれる物に精霊の気配を感じます。早く封印をとかなければ、精霊は消滅するでしょう。 ここに封じられし者は、私に足りない記憶を持っている筈です。この森の結界をといて、 旅するこの者達の帰ってくる場所として、ここに神殿を築きなさい。」
「あっ!」
「ま~た勝手な事だけ言って消えちまいやがった。」
老婆(シェーラと云う名前らしい)は、精霊の光が消えた銀の小箱に向かって深く頭を下げ、 可愛い孫娘のまだあどけない横顔に視線を移した。シェーラの視線に気づいたチチは、 真剣なその瞳に堅い決意を感じ取り、シェーラに向かって小さくうなづく。
「あの・・・私、精霊様に言われたので、一緒に行きます。」
「だ~!!こんなお子様連れてける訳ねえだろ!?」
「だまれ!ポカッ!精霊様のおつげは絶対じゃ。」
「な~にがおつげだ。大体聖なる石を狙ってるから通さないとか言ってたくせによ。」
「うるさい!ポカッ!」
「ってえなぁ。」
その様子を見ていたチチが悪戯っぽく笑った。
「チチです。よろしくお姉様達。くすっ。」
「
お兄様だ!」
「何かっこつけとるか!そ~んな格好しとる癖に。ひっひっひ。」
「くっ。」
・・・おばあちゃんたら、よっぽどこのお兄さんの事気に入ったみたい。・・・
チチは楽しそうに2人のやり取りを見ていたが、心配性のアビは、独り別の事を考えていた。
「・・・ねえシュール、その洞くつって王様の調査隊が1人も帰って来なかったんでしょ?
僕達、大丈夫なのかな?」
「!そうだよ、何で俺達が、んなとこ行って命落とさなきゃならないんだ。やめようぜ。」
「何言うとる。こんな輩が本当に銀騎士様の再来なのか!嘆かわしい。
銀騎士様の再来は我が一族から出るものと思うておったにな。」
「銀騎士様の再来?何だそりゃ。俺達そんな事ぁ知らねえよ。
大体よ、婆さんだってどうやって神殿なんか建てるつもりだよ。」
「むぅ、わしも行かずばなるまいな、御主らと一緒に、コーリット城まで。」
「え~!!」
皆が一斉に、驚きの声を上げた。
「シェーラじゃ。よろしくな。」
「・・・
」
オンライン小説「銀の騎士」は、剣と魔法のファンタジー物語「KNIGHT OF SILVER」を前身とするオンライン小説サイトです
©1999- オンライン小説All Right Reserved.