オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語

銀の騎士本編

第3章~危機~

オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語

氷の洞くつ(3)

何が起きたのかさっぱり分からなかったが、炎を吹いて力を使い切った奴を、倒すチャンスは今しかない。シュールは、奴の喉元目掛けて剣を降り下ろす。奴は少し動いただけで、避けることが出来ずに断末魔の叫び声と共に消えた。

奴の周りにいた二匹はさっきの炎に巻き込まれて消滅していた。残るはザトー達の戦っていた魔物。それもあと三匹だけだ。すぐさまシュールが加勢して、なんとかその場にいたすべての魔物を倒すことが出来た。しかし、誰も光る石を拾おうとする者はいない。
アビは意識を失い、クロッカも足に傷を負った。

そして・・・。

「おばあちゃん、どうして。おばあちゃん。」
真っ黒になったシェーラの変わり果てた姿・・・。

チチはシェーラの上に覆い被さる様にして、泣いた。誰も言葉をかけることが出来ない。
あの時、奴が火を吹くことをいちはやく察知したシェーラが、奴の懐に入って炎をくい止めなければ、ここにいる全員が炎の餌食となっていた筈だ。シェーラはあの魔法が間に合わないことを知って、自分の体に奴の炎を吸収させた。命を落とすと分かっていながら。

最後に「後は頼む」と言った気がするが、轟音にかき消されてよく聞こえなかった。
シェーラは炎を吹いた後、奴の力が弱まることを知っていたのか。いや、そんなことは今となってはどうでもいい。目の前の現実を受け入れなければならない。
シュールの目に自分でも気がつかない内に涙が溢れていた。

このまま奥へ進むのは無理だった。一旦引き返さなければならないだろう。だが、その途中で魔物が現れたら、今度こそおしまいだ。

ここまで来る間、魔物は一匹も現われなかった。それがどうして急にあんなに沢山の魔物が。いったいどこから現れたんだ。
シュールの脳裏にある考えがこびり着いて離れない。
・・・たぶんそうだ。あれが魔物を呼んだんだ。だとしたら・・・。
「チチ、シェーラを弔ってあげよう。ここから出るんだ。」
シュールがチチの腕を引っ張って立たせると、チチは心のない人形のようにゆらりと立ち上がった。
「ザトー、アビを頼む。アミューはクロッカに肩を貸してやってくれ。スーはチチを・・・。 多分自分で歩けない。」
皆黙って目でうなづいた。そしてシュールは黒焦げになったシェーラを大事そうに抱え込んだ。
「戻ろう。」
「でもまたやつらが出て来たら。」
足を引きずるクロッカに、シュールはきっぱりと言った。
「大丈夫、俺に考えがある。俺の歩いた通りについて来てくれ。それ以外の場所は絶対に踏むなよ。」

・・・そう、大丈夫だ。きっと。・・・
それは自分に言い聞かせる声でもあった。

・・・甘く考え過ぎていた。・・・
ザトーは唇を噛む。
・・・ジャンの言う通りだったかも知れねぇ。・・・
女王が出した調査隊はコーリット城の選り抜きの騎士達だ。それが全員戻って来なかったという事実を、 もっと深く考えるべきだったのだ。ふざけ半分に入って行ける場所ではなかった。

・・・その後だって誰か10000バルを狙ったハンター達が何人も入った筈だ。この洞くつに。 だが誰一人として戻って来なかったんだ。なんてこった!くそっ!・・・

アビをおぶってシュールの後に続きながら、ザトーは考えていた。

・・・シェーラがこんな事になったのは、俺のせいかも知れねぇ。俺があの時きっぱり断れば。いや、断固として反対してりゃこんな事にはならなかった。俺達が行かなけりゃ、アビだって考え直したかも知れねぇ。いや違う。アビは初めから自分達だけじゃ無理だって言ってたじゃねぇか。俺が行くって言わなけりゃ、シェーラは死なずにすんだ。アビもクロッカも!・・・

「おい、ぼーっとしてんじゃねえよ。」
すぐ後ろでふらふらしているザトーにシュールが声をかける。

「ちょっとでも俺が歩いた路から外れてみろ、全員死ぬぞ!気を引き締めとけよ。」
「何か分かったのか?」
ザトーが聞く。

「やつらが一斉に現れたのは、多分この床の模様だ。」
シュールはもう殆ど確信していた。

洞くつの床にはめ込まれた石・・・入り口近くではなんて事ないふつうの石畳だった。 それが、奥に進むに連れて所々に模様の入った石が見られるようになった。 何の気なしに歩いていたが、多分この石が魔物を呼び出す印だったのだ。

奥に行くに連れて増えて行ったその印を、偶然誰かが踏んだ時、警報と共にやつらが現れた。
それにしてもいやらしい造りだ。 すぐに逃げられる入り口付近には一切危険はなく、安心して気を抜いた頃になって、一度に10匹以上もの魔物が現れる仕組みになっていたとは。
「模様なんて気づかなかったな。」
ザトーがぽつりと言う。この薄暗がりで、足下の模様に気づく者はそういないだろう。
アミューとスーは、もう口を開く元気も残っていなかったし、クロッカは痛みで気が変になりそうだった。
シュールはシェーラの遺骸の重みを腕に感じながら、アビがそれを見ないですんだ事を、感謝したい気持ちだった。出来る事ならチチにも見せたくはなかった。こんな惨たらしい姿。
「婆さん、あんたの事好きだったぜ。」
「ん?何か言ったか?」
「いや、何でもない。」
出口はもうすぐだ。

霧のような冷たい雨が降っていた。葬儀の鐘が響き渡る。
表向きは老衰という事になっている。先読みの一族の者が魔物にやられたと知れば、民の不安が増すばかりだ。
葬儀は王自らが取り仕切った。シェーラはコーリット城の専属薬師だったのだから当然といえば当然だ。
身内は幼いチチがたった独り、表情のない人形のようにただ立ち尽くすばかりである。

先読みの一族の里はここからずっと南の山の中だ。
一族の者は5歳になると全員、里に帰されるしきたりだった。魔法を学ぶ為である。
一族の血を引くからといってすべての者が、等しく精霊の力を受け継いでいる訳ではなかった。
いにしへの頃、銀の騎士が精霊から授かった不思議な力は、生命の営みの中でだんだんと薄れてゆく。 その中にあって、突如として強い精霊力を持って生まれて来る者があった。
精霊力の強さは、生まれ出るその時に周囲に伝わる波動の強さで知る事が出来る。 ほんのわずかな力でも持っている者ならば、新しい命に宿る力の強さを感じる事が出来た。
特別に強い力を持って生まれて来た者は、生まれてすぐに里へ帰される。 その子は一族の長のもとで、次期長としてまわりの子供とは隔離され、厳しく育てられるのだった。

一族の里に帰された5歳の子供達は、魔法学校で10年を共に過ごす事になる。 例外的に、優秀な子供を規定年数より早く親元に帰す事があるが、大抵は15歳になると子供達は里を出て親元に帰ってゆく。そこで5年間、魔法以外の事を学び、もしくは生涯の伴りょを見つけ、20歳になると、どこかの城の専属薬師として召し抱えられるのだった。 普通は親の仕える城に見習いとして入るので、一つの城には複数の薬師がいるのが常である。

しかし、コーリットにはシェーラ一人しかいなかった。チチの母親(シェーラの一人娘)が昨年病で亡くなったので、まだ15になる前のチチをシェーラが無理矢理、里から引き取ったが、チチはまだ幼く見習いである。 チチは里の魔法学校で大方の事は学んでいたが、残り5年分の勉強をシェーラが見る事になっていたのだ。
それがこんな事になるとは・・・。

「おばあちゃん、私、これからどうすればいいの?まだまだおばあちゃんに教えてもらいたい事がいっぱいあったのに・・・。」

チチはシェーラのひつぎの中に持っていた白い花をそっと置いた。
そこに立ち尽くしたままのチチを、アルテ様が庇うように連れて行った。アルテ様の目も真っ赤に腫れている。おそらくはアルテ様にとってもシェーラは親同然だったに違いない。
「シェーラの言っていた神殿を急いで建てさせて、そこにシェーラを寝かせてやろう。」
アルテ様がチチを労るように静かに言った。

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