第3章~危機~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
再びコーリット城(2)
アビが目覚めたのは、シュールが出発した二日後の事だった。
気がつくと体中が鉛のように重くて、身動きがとれない。腕をあげようと思ってもあがらないし、口を開こうとしても言葉を発する事が出来なかった。その上まぶたが凄く重くて、目をあける事も出来ない。しかし不思議とまわりは明るかった。
「アビ!アビ!しっかりしろ!」
誰かが呼んでる。
誰?
わからない。
ここはどこだろう?
わからない。
アビ?
僕の事?
「アビ!くそっ。今確かに目が動いたんだ。アミュー、お前チチを呼んでこい。」
「え?チチを?おれが?」
「仕方ねえだろ?アビが目を覚ましたら真先に薬師がいるんだよ!」
「わ、わかったよ。」
アミューはチチに声を掛けづらく困った様子だったが、意を決して部屋を飛び出した。チチの部屋まで走って行くと、ひと呼吸於いてからコンコンとノックする。そして、返事が帰って来る前に、
「チチ、アミューだ。入るぞ。」
と言って扉をあけた。
ぼんやりと窓際に座って外を眺めていたチチは、ドアを乱暴にあける音でやっと気がついてこちらを振り返る。
「チチ、悪いがすぐ来てくれ。アビの様子がおかしいんだ。」
遠慮がちに言うアミューの言葉を理解したのかしないのか分からない、ぼんやりした表情のままで、チチは椅子から立ち上がった。
「連れて来たぞ。」
支えながらやっと部屋までチチを伴って、アミューはホッとした。
が、次の瞬間、突然チチがアビに駆け寄ると、今までの表情が嘘のように、
「大変!!魂が離れかけてる!」
と叫んで何やら難しい呪文を唱え始めた。
まわりにいたアミューもスーもクロッカもただただ驚くばかりで、何も出来ずにつっ立っている。
「誰かお湯を持ってきて!私の部屋から薬草箱も!」
チチが焦って叫ぶとアミューとスーが大きくうなづいて部屋を飛び出す。
チチは再び呪文を唱え始めた。長い呪文だ。しかも何度もくり返す。
先に薬草箱を持ってアミューが戻って来た。
チチはテキパキと、薬草箱から数種類の薬草を取り出し、
「お湯が来たら、これを溶かして。そのお湯に綺麗な布を浸しておいて。」
と早口に指示してまた呪文に戻った。
アビの様子は変わらない。まぶたがひくひくと動いているだけだ。
チチの額から汗が滲んで来る。
「チチ。」
アミューが浸した布を入れ物ごと持って行くと、
「軽くしぼって。」
とチチ。言われた通りに軽く絞って、アミューはチチに布を手渡した。
顔全体をそっと拭ってから、布をたたんでアビの目の上に載せ、チチは今度は違う呪文を唱え始めた。
・・・魂が離れかけてるってどういう事だ?まさか死ぬんじゃないよな・・・
三人の男達は後はもう何も出来ずに、ただ見守るしかなかった。
アビは明るかった視界が、まわりからだんだんと闇に侵されるのを感じていた。少しずつ暗くなっていく。怖くて必死に目をあけようとしても、瞼は自分のモノではないかのように、言う事を聞かない。
・・・ああ、明かりがだんだん小さくなる。・・・
加速度を増して闇が迫って来る。前方の円い形の明かりは、その大きさを徐々に小さくし、ついには消えた。右も左も分からない闇の中で、女の子の声が聞こえて来る。その声はだんだん大きくなる。
呼んでいるのは誰?
どこにいるの?
助けて!誰か
誰でもいい
ここから出して!
呼びたいのに口が開かない。声が出ない。
・・・ああ、声を出したい!・・・
アビが懸命に力を込めて、声を振り絞ろうとする。
もうこれ以上力が入らないと思った時、パーンと何かが弾け、アビを戒めていたモノが一気に解けた。
「アビ、気がついたのね。よかった。」
初めに視界に入って来たのはチチだった。続いて、アミュー、スー、クロッカ。
みんな口々に「アビ、よかった。」と叫んでいる。
・・・あれ?僕どうしたんだっけ?・・・
意識がしっかりして来ると、そこに当然いるべきシュールがいない事に気がついた。
「・・・シュールは?」
「ああ、今先読みの里に行ってるよ。」
スーが答える。
「なんで?」
「お前を見てくれる薬師を連れにだよ。」
「だって、シェーラは?」
当たりはしーんとなった。男達は顔を見合わせて困っている。
「どうしたの?」
アビの胸がドキドキいい始める。
・・・なんだろう、この嫌な感じ。・・・
そして、意識を失う前に最後に聞いた、チチの悲痛な叫び声が突然蘇った。まさか、そんな。そんな事が現実である筈はない。アビは、不吉な予感を振払おうとしたが、皆の様子が、それを許さない。
「シェーラ・・・まさか。」
アビのつぶやきにチチが答えた。
「おばあちゃんは死んだわ。」
突然、つかえていたものがとれたように、チチがワーっと泣き始めた。
「僕のせいで、シェーラが。あの時僕がやられさえしなければ・・・。」
アビは呆然として言った。
「違う!私があの魔法をやろうって言わなければ!おばあちゃんはバリアを解かなかった。そうしたら、あんな事にはならなかった。私が・・・!」
もうそれ以上は声にならなかった。
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