第3章~危機~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
再びコーリット城(3)
誰もが、シェーラの死に責を感じていた。
そんな心を反映してか、灰色の空に冷たい霧がかかっている。
王城の騎士達は、戦争がある訳でもないのに、毎日中庭でトレーニングに励んでいる。アビは、少しでも早く体力を取り戻そうと、騎士達のトレーニングにまぜてもらう事にした。
シュールが帰って来るまでに、完全に体を戻しておかなければならない。そうしないと氷の洞くつに挑む事は出来ない。
シェーラの死を無駄には出来ない。シェーラは、自分の弱さのせいで犠牲になったのだ。しかし、今度はザトー達も一緒に行ってはくれないだろう。どうすればいいのかは、今は分からない。ただ、もっと強くなりたい。誰も傷付かないですむように。誰にも迷惑をかけないように。もっともっと強くなりたかった。
騎士の訓練は、基礎体力の強化、整列行進の訓練、剣を用いての実践訓練の三つだ。アビはこのうち基礎体力と実践訓練に参加させてもらえる事になった。基礎訓練は早朝から昼前まで、実践訓練は夕方から夜までだ。
肉が抉れた左腕は、なかなか思うようには動かない。どうしても無意識に左を庇ってしまう為、実践では勝てたためしがない。こんな調子では、氷の洞くつに入ってもまた、仲間の足を引っ張ってしまう。アビは気持ちばかり焦っていた。
「坊主、そんなにムキになるもんじゃないぞ。肩の力を抜いて心を無にすれば、必ず勝てるものだ。」
実践訓練の時面倒を見てくれている、親切な小隊長さんが教えてくれた。でも、心を無にするってどういう意味だろう。
「たまには、街に出てのんびりしてみたらどうだ?」
アビはそんな気分にはなれなかったが、クロッカの足がよくなって来たので、午後にみんなで街に行ってみる事にした。
その日は珍しく晴れ間が見えていた。
「ああ、久し振りにいい天気だ。気持ちいいな。」
クロッカが伸びをする。もう、一人で歩けるまでに回復している。旅を続ける為には、もう少し回復を待たねばならないだろうが、散歩程度のゆっくり歩行だったら、人の手を借りずに歩けた。
クロッカ、アミュー、スーの三人はアビが必死にトレーニングしている事を知ってはいたが、もう一度あの洞くつに入る気はしなかったので、何も言わずにいた。ザトーがどうするつもりなのかも聞いていないし、迂闊な事は言えない。その事が引っ掛かっていたので、散歩の間中会話は空々しいものになってしまった。
チチはあれからずっとアルテ様の元にいたので会っていないが、精霊に運命を告げられた本人で、しかもたった一人の身内を亡くしてしまったのだ。仇は討ちたいに違いない。
・・・もしチチが一緒に洞くつに行くって言ったら、僕が必ず守らなくちゃ。・・・
アビはぶらぶらと街を散歩しながら訓練の事ばかり考えていた。
・・・こんな事している場合じゃないんだ。早く強くならないと。・・・
「おい、そっちだ!」
「追い詰めろ!」
ざわざわというどよめきの中に、時々大きな怒鳴り声を混じえながら、街の人が集団でこちらに向かって走って来る。その前を小さな犬のような魔物が、逃げ惑う。
小さな魔物はアビ達のいたすぐそばの茂みに逃げ込み、グルグルと牙を剥いて唸った。よく見ると震えている。
「魔物だぜ。どうする?」
なんだか倒す気にならない程小さな魔物なので、スーはそう言ってみんなを見回した。
「怯えてるみたいだね。見逃してあげればいいのに。なんにも悪さなんかしないよきっと。」
アビが答える。
そうしているうちに追い付いた街の男達が、棒を持って魔物を囲んだ。一人の男が、まさにその棒切れを魔物の頭に降り下ろそうとした時、
「やめて~!!」
と叫びながら一人の女性が走って来るのが見えた。
すかさずスーが、降り下ろそうとした男の腕をつかむ。
「何しやがる!邪魔する気か!」
「やめてって叫んでる御婦人がいるぜ、おっさん。」
その時、初老に入ろうとするその女性が息を切らせて走り着き、涙を流しながら魔物に抱きついた。これにはさすがに、その場にいた全員がびっくりしてしまった。その魔物は女性に危害を加える様子もなく、ただこちらに向かって唸っている。
「婆さん、どきな。そいつはもうあんたの犬じゃない。」
腕をつかまれた男は、忌々し気にスーの手を降りほどき、女性に向かって言った。
すると女性はますます強く魔物を抱き締めて、
「いいえ、この子は私のファーガよ。どんな姿になったって。」
と涙を流しながら訴えた。
「いいかげんにしな。そいつが街の人間に悪さしないって誰が言えるんだ?諦めろ、そいつは魔物だ。」
その時アビが魔物を抱いた女性の前に立ちはだかって、
「おじさん、やめてよ。この子まだ何もしてないじゃないか。こんなに怯えてるのに分からないの!?」
と講議した。いつもおとなしいアビが強い調子で大人に食って掛かるのを見て、みんな驚いたがすぐに気を取り直して加勢した。スーが再び男の右腕をつかむ。
「そうだよ、よってたかってこんなチッコイ奴に、情けねえな。やめとけよ、おやじ。」
「俺達ゃハンターだ。責任以てこの件、後引き受けるから、おっさんは引っ込んでいいぜ。な?おばちゃん。たった今俺達に依頼したろ?」
アミューは男の左側にまわると、魔物を抱いた老婦人に向かって声をかけた。
「な!こいつは俺の獲物だ。横取りはやめてもらおう。」
左右をこんなに身体の大きな輩に固められ怯んでいた男は、アミューの発言にビクッと反応を示し、慌てて講議する。獲物、という言葉になるほどと納得したアビは、
「おじさん、この子からとれる光る石が目的なんだね。だったら取り引きしようよ。この子から手を引けば、この石をあげる。」
そういって、ポケットから大きな透明の光る石を取り出した。
「おい、アビ。そんなもったいねえ。その大きさはかなり大物だぜ。」
アミューがアビの持つ石に手をのばしかけた途端に男は、
「ちっ、仕方ねえ。」
と言ってアビから石をひったくり、スーを振り切って走り去った。
野次馬達からは、誰からともなく拍手が起こった。
「アミュー、ナイスフォロー!」
アビは、片目をつぶってみせる。
「ちげーよ!!ホントにもったいねえっつったんだよ!馬鹿!」
野次馬から笑いが洩れたのを見て、スーは「馬鹿。」と口の中で呟きながら苦笑する。アビの後ろからその様子を伺っていた女性は、魔物を抱いたまま恐る恐る口を開いた。
「あ、あの。ありがとうございました。」
アビは振り返り何も言わずに満足気に顔をほころばせ、アミューは調子に乗って提案した。
「なあ婆さん、いつ襲われるかわかんねえから気を付けた方がいいぜ。俺達今日泊まってやろうか?」
スーとクロッカが目を逸らす。厄介事に関わりたくはないのだ。アミューは仲間内では一番年も若く、お人好しで通っている。クロッカなどはまたこいつは、と言うようにあきれ顔になっていた。
「いいんですか?」
女性はアミューの顔をまじまじと見ながら、信用出来るかどうか慮っているように見えたが、助けてくれた人だし、再び誰かに狙われるような事になったら、という不安もあるせいか、信用したい気持ちの方が勝ったようだ。
「金は貰うぜ。それが商売だからな。」
女性の思惑など全くお構い無しに、アミューは明るく笑う。
こうしてアビとアミューが女性の家に泊まって、小さな魔物を監視する事になった。
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