第4章~謎~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
ツール村(2)
フェンの村があんな事になって、誰もが自分の村を思う。家族を思う。フェンに生き残りは一人もいなかった。小さな村とは言え、たった一人も残っていないとは一体何が起こったのか、それとも他の村に避難したのか、どちらにしても魔物の仕業に違いなかった。
フェンの村には沢山のハンターがいた筈だ。旅人の中にもハンターは多かったに違いない。防ぎきれない程沢山の魔物が一度に現われたと言うのか。今までそんな事は一度もなかったのに。
確実に魔物が増えている。コーリットに向かう道中でシェーラがそう言っていた。その時よりも今は更に増えている。
この馬達だって、いつ魔物化するか分からない。
ザトーの心ははやっていた。村に残した家族が心配だったのだ。小さな村でハンターは自分達の他に二人いるだけだ。ジャンがとっくに村に着いているだろう。何かあってもハンターが三人いれば・・・。
しかしフェンの村には二十人以上のハンターがいた。それを考えるといても立ってもいられない。
皆がそれぞれの思いを胸に、押し黙って馬を走らせた。馬で急げば三~四日でツールに着くだろう。
「ザトー!あの子が!!」
ツールに着くと待ち構えていたように、ザトーの妻が出迎えた。
「坊主がどうした!?」
「帰って来ないのよ。昨日からずっと。」
「な、なんだと!?」
「あなたが帰って来てくれて良かった。」
狭い村の中で子供が一人行方不明とあっては、村じゅう大騒ぎである。
皆それぞれの家に帰って行き、アビとシュールはザトーの家に泊めてもらう事になっていたのだが、ゆっくりしている暇はない。ザトーの息子を探さなければならない。
アビは、ザトーが結婚していて子供までいるという事にびっくりしたが、そんな事を言っている場合ではなかった。
ツール村は本当に狭い。この中にいて探せないとは思えない。だとすれば村の外に出たとしか考えられない。だが、村の外に出て果たして子供が一人、一日生き延びられるかどうか定かではなかった。もちろん誰もその事を口には出さない。
暗く重苦しい空気が流れていた。それでも探さずにはいられない。
アビとシュールは村の外を探す事にし、アミュー達は村から地続きの海岸を探す事にした。砂浜で遊んでいて波にさらわれたという可能性は十分に考えられる。しかしもしそうなら、もう生きてはいないだろう。
海辺にはいくつかの自然穴がある。その中に迷い込んでいるのであれば見つかる可能性はあった。そうである事を祈りながら、アミュー、スー、クロッカの三人は、家族への思いも早々に切り上げ、懸命に子供の名前を呼んだ。
「トッポ~~~~~!!」
湿った風が吹き抜ける自然穴の中で、声は何重にも虚しくこだました。
村人達ももちろん思い思いの場所を懸命に探している。村中総出の大捜索となった。
アビはシュールに耳打ちした。
「これだけの人が探しても手がかり一つ出て来ないって事は、きっと村の人達が思いも寄らない所にいるんだ。僕達は誰も探さない所に行こう。」
「そうだな。魔物に喰われてなきゃいいが。」
シュールは渋い顔で答えた。子供が村の外で一人、一夜を明かせる筈はないのだ。シュールの頭にファーの顔が微かに過った。
・・・あれは本当に幸運だったんだ。そんな幸運は何度も訪れはしない・・・
二人は半時程、子供の名を呼びながら南下した。
するとずっと昔に住む者のいなくなった村跡が見えて来る。生き物の気配のない風化した村、主人のいなくなった家の扉が、時折風に揺られてはバタンと大きな音を立てている。
ここにそれがある事はザトーに聞いて知っていた。ただ、そんなに遠くまで行ける筈はないと、そう言われていた。アビもそう思う。ここに来るまでに四匹の魔物が現われた。どれも取るに足りない雑魚だったが、六歳の子供の手には負えないだろう。もし、ここに来ようとして村を出たのなら、辿り着いている筈はない。
しかしだからこそ盲点になっている可能性もある。もし運良く一匹の魔物も現われなければ・・・。
この寂びれた村の跡に魔物がいない保証はないが、それでも草原よりはましだろう。運良くここに辿り着いて、助けを待っている可能性も、限り無くゼロに近いがゼロではない。
「トッポ~~~~!!!」
「助けに来たぞ~~~~!」
アビとシュールは口々に叫ぶ。声を限りに叫ぶ。
それでも振り絞った声は、風の音にかき消されそうな程、風は猛り狂っていた。
二人は主人のいない家々の残骸を一軒一軒調べて行く。
扉をあけると、積もった砂埃が螺旋を描いて舞い上がり、二人の眼と鼻をおそった。
そして、新しいおもちゃを与えられて喜んでいるかのように、風は大きな音を立てて部屋中を吹き荒れた。その音は二人を嘲笑っているかの様であった。
「くそっ!忌々しい風の音だ。」
シュールが悪態をついたが、それもまた風音にかき消された。
と、轟音に混じって、何か異質な音が聞こえたような気がした。
「今何か・・・」
聞こえたような気がしただけかも知れない。アビは思った。だがシュールは確信した。
「しっ。」
眼をつぶって耳をこらす。
「子供が泣いてる。きっとトッポだ、ここにいるんだ。」
「聞こえないよ。」
「いや、確かに聞こえた。方向は分からないが、絶対にいる。」
慎重に、くまなく、二人は廃墟を確認する。
「あっ、ほらまた。」
今度はアビにもハッキリと聞こえた。子供の啜り泣く声に似た微かな音が。その音は頭の中でこだまして、どの方向から聞こえるのか全く分からない。
「手分けして探そう。」
そう言ってシュールは、右の路地に入って行った。
残されたアビは、左の路地に視線を移し、そのまま視線の先にあった屋根のない廃墟に歩み寄った。
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