第6章~決戦~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
精霊(3)
神殿の扉がゆっくり開く。
振り返るチチ。
外の光が眩しい程に差し込んで来る。
そこに立つ人間の背から差し込む光は、彼の揺れる金色の髪に反射して煌めいた。
彼はゆっくりと中に入って来てチチの目の前にしゃがんだ。
見た事のない明るい碧色の瞳はまるで宝石の様。優しい笑みをたたえる口元は天使もかくやと思わせる。光の束を編んだようなまっすぐな金の髪はどんな黄金よりも美しい。
・・・人間ではなかった。私が呼んでしまったのは。・・・
チチは思った。
呪文を間違えて、何の悪戯か本物の精霊を召還してしまったのだと。
「一人でこんな所にいては危ないよ。」
彼の口から洩れた音は、言葉ではなく楽器の様。
こんなに美しいモノを未だかつて見た事がない。
「あなたは精霊様?」
チチは思わず呟いた。
「ええ、そうです。」
優しく微笑む彼の後ろにもう一つの人陰が近付いたが、チチは彼から目を放せない。
「まったく、何をやっているんですか。あなたって人は。こんなに小さな子供を騙して。」
「・・・騙して?」
騙してと言う言葉が酷く現実的で、この場の空気に不釣り合いな気がしたので、いつまでも彼を見ていたい気持ちを振り切って、チチは後ろの人陰に視線を移した。
黒っぽい髪で褐色に日焼けした肌を持つ逞しい青年が、チチを見下ろしている。
「この人の言う事を信じてはダメですよ。」
・・・どういう意味だろう?・・・
きょとんとしているチチをよそに、彼は黒髪の青年に向き直った。
「失礼な。騙したなんて。ジョークだよ、ジョーク。」
「でも、この少女はすっかり信じてましたよ。あなたが精霊だと。」
「まさか。」
そう言って二人は同時にチチの顔に視線を移す。
「ほらね。」
「・・・・・。」
チチは二人の顔を見比べた。
「私はセラム。一応人間です。彼は私のともだちでサンバール。あなたは?」
精霊だと思った人がにっこり笑って言った。
・・・この美しさが人間?・・・
チチは信じがたい気持ちで目を見開いて、やっとの思いで口を開く。
「・・・チチ。」
「何だか胸騒ぎがしてここに来てみたが、良かった。こんな所に女の子が一人でいたら、あっという間に魔物の餌食だ。さあ、私達と一緒に行きましょう。」
「一人じゃないの。アビと、あとシュールが・・・。」
セラムはチチの指差した柱の陰にうつろな瞳で座り込む少年を見つけ、
「彼がアビ?シュールはどこに?」
と聞いた。
「シュールは悪しきモノに連れて行かれたの。どうしていいか分からなくなって、魔法であなたを呼んだの。ごめんなさい。」
「魔法?君は魔法使い?」
「ええ、見習いですけど。」
「サンバール、聞いたかい?この大陸には魔法使いがいるらしい。しかもこんなにかわいらしい魔法使いが。」
「はいはい。私はシュールとやらを探して来ますから、ここにいて下さいよ。シュールはどんな人?」
「あの、髪はグレーで目は蒼色で背が高くて、口が悪いお兄さん。」
「わかりました。じゃ、ちょっと見て来ます。」
興奮するセラムを適当にあしらってサンバールは行ってしまった。
「彼はどうしたの?」
セラムは虚ろな目で人形のように座ったままのアビを見ながら聞いた。
「シュールが悪しき力に操られて、アビを突き放したのがショックだったみたい。
もう何を言っても返事がないの。」
セラムはアビに話し掛けたり手を取ってみたりしたが、全く反応はなかった。
そうしているうちにサンバールが戻って来て言った。
「どこにもいませんでした。魔物の気配もありません。とりあえず街に行きましょう。森を出てすぐのところに新しく出来たカルという街に。」
サンバールは、チチに説明するかのように言った。
カルは、神殿の完成と共に、森の南に出来た新しい街だった。他の村に避難していたフェンの生き残りが、大勢移住したと聞く。フェンを襲った大量の魔物が何処から現われたのかは、今も謎であった。その時魔物に殺された村人は百人を超えていたという。サンバールは昨日聞いたばかりの話を思い出し、ふとあっけなく散る人の命を思った。
「じゃあサンバール、アビをおぶって。私はチチを。」
セラムは、サンバールの思いなどお構いなしに、チチの手をとった。
「・・・あくまでも女の子が好きですね。」
サンバールは溜め息をつきながらアビを肩に担いだ。
アビは操り人形さながらに、サンバールの肩の上で手足を力なく揺らしていた。
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