第6章~決戦~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
精霊(4)
「そうでしたか。ではあの時の・・・。」
今までの事情を説明したチチにサンバールは納得したように言った。
「あの時のって・・・」
チチには意味が分からない。
「あの時ってあの時?」
セラムが間の抜けた質問を浴びせる。サンバールは大きく溜め息をついた。
「そう、あの時です。私が三つの銀の箱を少年に譲って、あなたに怒られたあの時ですとも。」
「うっ、サンバール、嫌な言い方するね。私は別に怒ってなど・・・」
チチは何秒か黙ったままでじっと二人を見つめていたがその後、大きな目を更に大きくして言った。
「シュールに銀の箱を譲ってくれたお方だったんですか?」
チチの瞳は潤んでいる。この美しい若者達との出会いが運命のように感じられたからだ。少女にありがちな憧れのまなざしで、チチはセラムとサンバールを交互に見つめた。言葉遣いまで先程とは変わっている。
「ああ、あの少年がシュールですか。」
サンバールは納得した。確かに蒼い眼に灰色の髪の口の悪い少年だった。
「どうしよう、シュール無事かしら。こうしている間にもどんどん生気を吸い取られているんじゃ・・・。」
落ち着かない様子のチチに、サンバールは提案した。
「取りあえず先読みの力を持った若い男というのを探してみては?」
「ああ、そうよね。そう。でもアビが。」
チチは食堂の隣の席に頼り無く座るアビを、ちらっと見て言った。
「アビは私の知り合いの女性に預けましょう。私達もあなたと一緒に先読みの若者とやらを探しますよ。」
「一緒に行って下さるんですか?」
「サ、サンバール。知り合いの女性って・・・」
サンバールの言葉に、チチとセラムが同時に驚きを見せた。全く違った意味でだが。
「何で来たばかりの街に知り合いの女性が?」
サンバールはセラムのことは完全に無視したまま、チチに優し気に微笑んだ。
「もちろんです。こんなにか弱そうな女の子を突き放したりしませんよ、私もセラムも。たとえあなたが魔法使いでも、一人ではお困りでしょう?」
「ありがとうございます。私は先読みの一族の見習いです。私の里に行けば力のある男の人は沢山います。でも一人で魔物と戦いながら里に行くのは無理だもの。」
チチは予定を変更して、先にコーリットで光らない石をとって来ていて、良かったと思った。もとよりロールに向かう予定であったからだ。ププタンから神殿に向かおうとした時、馬を預ける場所がなく、先に馬でコーリットに行き、城に馬を置いてから、徒歩で神殿までやって来たのだった。
「ああ、そうですか。先読みの一族というのが魔法使いの一族なんですね。」
サンバールは先読みの一族に興味を引かれたらしかった。
「ええ、そうなんです。」
「ちょっとサンバール。君の知り合いは一体どこの女性だと・・・」
セラムはもう一度サンバールに言いかけるが、サンバールは全くそ知らぬ顔でチチと世間話を繰り広げている。
「どんな魔法があるのですか?」
「それは色々ですけど、主に癒しの魔法と先読み、えっと占いみたいなものですけど、そういった力です。」
「それは興味深いですね。」
「サンバール、そんな徹底的に私を無視しなくたって・・・」
セラムがまたも口を挟むがサンバールは知らん顔でチチに色々聞いていた。
「あの、精霊様がさっきからあなたに・・・いいんですか?」
チチは、マスクで顔を覆っても尚美しいセラムの様子が気になって、先程からちらちらと落ち着かなかった。
「彼は精霊なんかじゃありませんよ。見かけに騙されてはいけません。」
と、サンバールは落ち着いている。
「ちょっと、サンバール。その言い方はひどいんじゃないか?まるで私が悪者のように。」
サンバールはお構い無しにチチを質問責めにした。彼の知的好奇心がそうさせたのか、それともセラムにいぢわるをして楽しんでいただけなのかは、全くもって謎である。
「それでは、私はアビを預けて来ますから、ここでおとなしくしていて下さいよ。」
一通り聞いて満足したのか、サンバールはやっとセラムに向かって口を開く。
「なんだい。散々無視しておいて!」
「おや、何かおっしゃっていたんですか?それは失礼。」
サンバールはアビをひょいと肩に担いで店を出ていった。
「私には女性に近付くなとうるさいくせに。」
サンバールに聞こえないようにセラムは呟く。これが精一杯の抵抗であった。サンバール無しでは旅を続ける事は出来ないだろう。迷惑をかけているのも知っている。そして、口では何と言おうと、サンバールがどんな時でもセラムを第一に考えてくれているのも知っていた。だからこそ、サンバールには頭があがらないのである。
王宮で命を狙われていた時も、何度も身替わりになってくれた。実際サンバールがいなければ、セラムはとっくに殺されていただろう。
「あの、セラム様。」
チチは恐る恐るというように声をかけた。
「私はただのセラム。様はいらないよ。」
途端にセラムは、こぼれるような笑みを返す。
本当になんて美しいのだろう。マスクとフードで瞳しか見えていないのに、それでもつい見とれてしまう。チチは頬を赤らめた。
「セ、セラム・・・様の瞳の色、見た事ない碧色。」
チチはセラムと呼ぼうと努力はしたが、どうしても様を付けてしまった。
「ああ、これは母親譲りでね。」
セラムはチチがあまりにかわいらしいので、まどろむように微笑んだ。
チチはますます頬を赤らめて、うつむき加減で口を開く。
「碧の石は魔物から取れないから、高貴な女性はみんな欲しがってる。」
「なるほど、それでか。」
チチはセラムを見上げている。次の言葉を待っているのだ。
「何度かさらわれそうになった事があってね。瞳をくり抜くつもりだったかな?」
チチは青ざめた。想像しただけで恐ろしい。この美しい方の瞳がくり抜かれる所など。それに気づいたセラムはチチの頭をそっと撫でた。
「怖がらせてしまったね。」
チチはただ、首を横に振った。声を発する事が出来なかった。
あの美しい指が自分の頭を撫でていると思うと・・・。
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