第2章~集い~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
まよいの森(3)
コーリットからのアビへの遣いが来た時、ロールにアビの姿はなかった。アルビンとともに、カルの村へ調査に出かけたのだった。カルの村には、フェンの生き残りがいるからだ。
アルビンも今までに単独で何人かの話は訊いていたが、アビという助け手を得て、今度は全員を調査する事にしたのだった。
これは大変な仕事だ。一人ではとてもやれないと思うが、二人なら出来そうな気がした。
アビはこの仕事が終わったら、コーリットにいるシュールとチチを訪ねるつもりでいた。
シュールは元気を取り戻しているだろうか? アビを思い出してくれるだろうか? 気掛かりはたくさんあった。
アビの仕事は、村長の家に行ってフェンの村の生き残りの人達の、名前と家を調べる事。
調べがついた家から順に、アルビンが訪ねて行く。
アビは文字を覚えた事が役に立って嬉しかった。時々わからない文字が出て来ても、村長の家の誰かに訊けば、すぐに親切に教えてくれた。カルの村では、先読みの一族の次期長候補の助手を大歓迎していたのだった。
コーリットの遣いの人が、ロールからアビを追い掛けて来た時には、アビの仕事はもうほとんど終わろうとしていた。
「銀の騎士様が御会いになられるそうです。今すぐコーリット城にいらしてください」
そう言われてしばし、何の事だかわからなかった。
”ああ、そうか。”
やっと気づいて喜びがこみ上げた。
”シュールが元気になったんだ。僕を思い出したんだ。”
シュールが銀の騎士と呼ばれているところを想像すると、なんだか可笑しかった。
嫌そうな顔のシュールしか、目に浮かばないからだ。
「仕事、後ちょっとだから、終わったらすぐに行きます」
アビがそう答えると、遣いの人は苛ついた様子で、
「いますぐ、と言われましたので、お仕事は後にしていただきたい」
と、愛想なく言った。
アビはちょっと困ったが、アルビンに話に行くと、すぐに承諾してくれた。
「私も一緒に行きましょうか? シュールの話も訊きたいし」
アルビンも、カルの村での聞き込みを一時中断して、一緒に行く事になった。
アビはザトー達にも会いたいと思った。
コーリットの遣いの人は、カルの村で馬車を用意してくれた。先読みの一族の次期長候補が一緒に行く事になったからだ。遣いの人の態度はあまりも露骨で、アビは少し戸惑いを感じた。アビには馬鹿にしたような慇懃無礼な態度であったが、アルビンの前では全く違っていたからだ。
アビは今まで身分というものを意識した事はあまりなかった。アルビンに敬意を抱くのは立派な人だからだ。決して身分が高いからではなかった。アルビンの方もアビに対して、対等の扱いをしてくれる。ププタン村の大人達だって、アビを対等に扱ってくれた事はないというのに。
アビはチチの事を考えた。チチだって「きぞく」というもので、とてつもなく身分が高いのだった。それでもチチはアビと対等に話してくれた。これはすごく特別な事なのかも知れない。アビはそう思い出していた。
遣いの人の態度は、明らかにアビを蔑み、アルビンに対しての態度を無言で責めていた。今まで気後れする事なく普通に話が出来たのに、遣いの人が睨んでいると思うと、アルビンに声をかけるのがためらわれた。
ふと、銀の騎士となったシュールの事を思った。
シュールはきっと変わらない。でも、もしかしたら他の人が見ている前では、シュール様とか、銀の騎士様って呼ばなければいけないのかも知れない。 シュールに会えると喜んでいた心が急にしぼんでゆく。アルビンに必要とされていると感じたのも、ただの思い上がりかもしれない。
”お前ごときが、アルビン様と席を並べるなんて、思い上がりもいいところだ!”
遣いの人の目がそう言っていた。
そんな憂いを感じ取って、アルビンはやさしくアビの頭に手を置いた。アルビンの手は大きくてひんやりとしていたが、暖かい気持ちは伝わって来た。
「堂々としていなさい。あなたは運命の子なのですから」
そう言われて思わず、激しい言葉が飛び出した。
「運命の子なんかじゃなかった。そう言われて信じ込んで操られて、悪しき力を……!」
しかしアルビンは最後まで言わせなかった。アビの口にそっと人さし指を立てて遮る。
「滅多な事を口にしてはいけません。とくに、誰かが聞いているところでは。悪しき力や精霊の話は、誰にもしてはいけない」
「……ごめんなさい」
「私はアビが運命を握っていると信じています。だから手伝ってもらっているのですよ」
アルビンが微笑むとアビは泣きたい気持ちになった。期待を裏切ってしまう事が怖かった。うつむくアビの頬に手をかけ上を向かせ、アルビンはその瞳を覗き込む。
「たとえアビが、本当は世界を救う運命の子ではなかったとしても、今している事は、必ず皆の為になります。そう信じましょう」
アルビンは、震えるアビの肩をそっと抱き寄せた 。
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