第2章~集い~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
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翌日の事だった。
朝の清涼な空気の中で、乾燥させた薬草を選り分けていたチチの部屋に、侍女は容赦なくやって来た。
「カスケード様、異国の貴いお方が、銀の騎士への面会を願い出て来られましたが、どういたしましょう?」
チチは乾燥した薬草を分別し、調合する時間が好きだった。色々な香りが混じりあい、気持ちが落ち着いて来る。誰にも邪魔されたくない時間だった。その事は充分わかっている侍女である。
「具合が悪いとでも何とでも言って断って。異国にまで恥をさらす訳にはいかないわ」
チチは手を止めずに答えた。
「それが、お会い出来るまで、コーリットに滞在なさるそうなんですが」
困ったように言う。
「え~。どこの国の人よ」
「確か、バルボーンという北の方の大きな島の、第一王子様とその御友人の伯爵様のお二人です。私は拝見していませんが、うわさではたいそう美しい王子だとか」
銀の騎士の事はすべてチチを通す事になっていた。チチは幼いながらも国の行く末を左右する薬師であり、今では銀の騎士のお抱えのようになっている。銀の騎士はまだ完全に回復していないと、チチが公に発表していたので、何でもチチにお伺いをたてる暗黙の決まりになっていたのだ。
「仕方ないわね。私がお話するわ」
美しい王子と聞いて、心うごかぬ娘はない。チチとて年頃の娘であった。先程まで知らん顔を決め込むつもりであったが、侍女の言葉に興味をひかれたのだった。
きちんとした服装に着替えて、異国の王子の元へ向かう。身分の高い人をもてなす時には、正装するのが貴婦人のマナーである。チチもそんな事を気にする年頃になっていた。
「失礼いたします」
お客人の待つ応接室に入るなり、チチはマナーも忘れて思わず素頓狂な声をあげてしまった。
「セラム様!」
同時に二人が振り向いた。
彼の日に戦いを共にしたセラムとサンバールの驚いた顔がそこにあった。
サンバールはセラムをちらっと見る。このお嬢さんはどなたですか?と、その目が訊いている。
セラムに覚えはなかった。
「失礼ですが、どこかでお会いしましたか?」
セラムはサンバールの痛い視線を感じながら、平然を装った。
知らないものは知らない、濡れ衣だ、と思いながら。
「あ、あの。いえ」
アルビンが記憶を消していた事を思い出し、チチは困り果てた。
セラムの正視にたえ切れず、どぎまぎしているチチを気の毒に思ったのか、サンバールが助け舟を出した。
「あなたは女の子と見るとすぐに声をかけるのでしょう。それでいて忘れてしまうなんて、失礼ですよ」
「人聞きの悪い。私はそんなに女の子に声をかけているつもりはない」
サンバールはセラムには答えず、チチに向き直った。
「私はサンバール・レン・リュニアル。この方は……名前はもう御存じのようですね。でもここではレギン王子とお呼び下さい。あなたのお名前、あらためて聞かせていただけますね?」
”ああ、王子だったんだわ。そうよね。”
チチは妙に納得しながら、セラムに初めて出会った時の驚きを思い返していた。あの時は本心から精霊様だと思ったのだ。それくらい眩しくて綺麗だった。その美しさは今も変わらない。あれから、そんなに時は経っていないのだ。
「わたくしは、チチ・カスケードと申します。コーリットの薬師です。今は銀の騎士の治療にあたっております。残念ながらまだまだ異国の方々とお話出来るほどには、回復しておりません。またの機会にしていただけないでしょうか?」
チチは困り顔をつくって、丁重に面会を断った。
もう、かかわりを持つべきではない、そう感じたからだ。
しかしサンバールは、
「わかりました。では私達はこちらに滞在させていただきますので、銀の騎士様のお加減がよくなりましたら、ぜひお話を聞かせて下さい」
と、一歩も退かなかった。
”ああ、どうしよう。ややこしい事になっちゃった。シュール、セラム様の事覚えているかしら?”
とりあえずはその場を後にしたものの、どうするべきかは考え付かない。
”アルビン様に御相談しよう。”
チチはまだアルビンが滞在していた偶然に感謝した。
窓の外に騎士団が見える。石畳の中庭ではたくさんの立派な騎士達が訓練を行っていた。
シュールとアビは、城の騎士達の訓練に混ぜてもらい、喜んであばれまわっていた。アビも久し振りに身体を動かしたらしく、のびのびとしている。もちろんシュールもまだ本調子ではないから、遠くから見ると二人はただ遊んでいるだけに見えた。
明らかに浮いている二人の様子を二階の窓から見つめながら、チチはほーっと溜め息を吐いた。チチの息が窓を少し曇らせた。
冬はすぐそこまで来ていた。
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