オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語

銀の騎士続編

第3章~危機~

オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語

(6)

迷いの森には、カルの村の側から徒歩で入った。
冬にも葉が落ちない針葉樹の多い森は、下草こそ茂っていなかったが、気味悪く薄暗かった。

人間の背丈程の小さな木々は、ほとんんど葉が落ちかけており、僅かにしがみついている枯れかけた葉は、渇いた音をたてながら風に揺れている。それがカラカラと笑っているように訊こえて、尚も不気味だった。

森の中に人為的に作られた小道は、落ち葉でいっぱいになっていて、歩く度にザクザクと大きな音をたてた。

一年前女装して通ったこの道の先には、シェーラの小屋があった。
しかし、今はもうない。ザトー達と笑いあったフェンの酒場も、なくなってしまったのだ。

アビは、ついこの前まであった幸福な時間が、次の瞬間にはすっかり消えてしまう事を思うと、幸せを感じるのが怖くなる。今、幸せだと思えば思う程、いつそれが失われるかと不安な気持ちが掻き立てられた。

シュールも元気になり、チチとそしてアルビン様、誰一人傷付かないよう祈るばかりだ。
誰の死にも耐えられる自信はなかった。
誰も口を開かなかった。

シュールでさえ難しい顔をして黙り込んでいる。たぶん、シェーラの事を思い出しているのだろう。シェーラを一番慕っていたのは、シュールだったに違いないとアビは思う。
チチの事も気づかっているに違いない。

一見乱暴に見えるが、シュールの内面には人の心を気づかう優しさが隠されている。
幼いころから一緒にいるアビはそれがよくわかっていたのだ。

森に足を踏み入れた途端すぐに、アルビンは精霊力が強く漂っている事を感じて始めていた。それは神殿に近付けば近付く程、強く感じられる。もともとシェーラがこの場所に小屋をつくったのは、力が一番発揮出来る場所だったからなのかも知れない。だから、精霊様に神殿を建てるよう言われても、疑問を持たなかったのではないか。

シェーラに本当のところを聞き出す事は、もはや出来ない。シェーラはもう二度と話をしてくれないのだ。どんなに強い精霊力をもってしても、死者と対話する事は不可能だった。
最後の決戦の時は、このただならぬ空気に気づかなかった。その時は、悪しき力の待つ神殿に向かっていたのだ。不穏な空気が流れていたとしても、不思議ではない。
しかし今感じている精霊力と、あの時漂っていた悪しき力は、殆ど感触が同じだった。では今感じている力は、精霊力ではなく悪しき力なのではないか、そう自分に問いかけてみる。

”これはどちらの力なんだ。”

考えても答えは出なかった。二つの力は非常に似ていて、区別がつきにくい。が、そこに明らかに何者かの意図が感じられれば、話は別だった。

邪悪な気配を纏っていたあの時は、悪しき力だと感じられた。しかし今、力は誰の意志も受けず、唯そこにある。これがどちらを源とする力なのか、どうしてもわからない。
もしかしたら、二つの力は同じなのではないか。邪悪な心を持つ者が使えば悪しき力となり、清らかなる心が使えば、精霊力となるのではないか。

太古から受け継がれて来た先読みの力は、もとは悪しき力と同じだったのではないか。
これは今までの先読みの常識を覆す考えだった。
今まで、悪しき力は六百年以上前に、邪悪な人間がつくり出したとされてきた。それ以上の事は何もわかっていなかった。

”もし悪しき力が、精霊力をもとにつくり出された力だったとしたら……”
あり得ない事ではない。今まで誰も知らなかっただけで。

長い間、銀の小箱に封印されて来た悪しき力は、徐々に浄化されていき、元の精霊の記憶の一部を取り戻したのだとしたら……。そして閉じ込められた銀の小箱の中で、「光の精霊」という自我を持つに至ったのだとしたら……。悪しき力として働かされていた時の微かな記憶から、自分と同じ者があと六ケ所に封印されている事を知ったのではないか。あるべき姿に戻る為、分割され失われた記憶を求めたのではないか。

だが、他の箱に封印された悪しき力は、完全には浄化されておらず、精霊の記憶も不完全に取り戻しかけていた。闇の精霊の自我を持った第二の精霊は、悪しき力だった頃の記憶を強く残していた。封印をとかれた瞬間に、燻っていた力を発散した。それがたまたま人口の少ないフェンの村に、直撃したのではないだろうか。

精霊力からつくり出された悪しき力こそが、生き物を魔物化させる力なのではないのか。
およそ百年前、集中豪雨によって封印の銀の箱に亀裂が入った。悪しき力は徐々に抜け出て、生き物を魔物化させた。完全に魔物化させる力が抜け出てしまったププタンの銀の箱だけが、光の精霊として蘇った。光の精霊は、多くのなくした記憶を取り戻したい衝動にかられた。
考えれば考える程、辻褄があうような気がした。

”そうなのか……。”

問いかけるように顔をあげたアルビンの視線の先には、荘厳な神殿がそびえ立っていた。

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