第4章~混沌~
オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語
(7)
「シュール、上出来ですよ」
微笑みを浮かべながら、アルビンが部屋に入って来た。
三人とも緊張で疲れきってぐったりとしていた。
「アルビン様」
チチがやっと立ち上がってアルビンに椅子を勧めた。
「この調子で次回からもがんばって下さいね」
アルビンの言葉に、ピクッとシュールのこめかみが動き、眉がつり上がった。
「もう二度とごめんだぜ」
だが力なくそう言っただけで精一杯だった。
重い上衣を脱いだだけでだらしなく椅子に身体を預けたまま、シュールは大きく息を吐いた。
「アルビン様、ありがとうございました。僕、ずっとファーガのことが気になっていたんです。リーネさん、嬉しそうだったし」
アビは照れたように礼を言った。アルビンは微笑んだだけで答えなかった。
と、ふいにアルビンが顔をあげ遠くを見つめるように目を細めた。
しばらくしてチチと顔を見合わせる。
チチにもたった今起こった力の衝撃が伝わった。ロールの方角からだ。
何が起こったのかはわからない。しかし何か重大な変化が起こった事だけは確かだった。
「もしかすると、長の身に何か……」
言いかけて不吉な思いを振り切るように、アルビンは頭を振った。
「何だよ、変な顔して。何かあったのか」
アルビンとチチの様子がおかしいことにやっと気づいたシュールが、怪訝な顔で問いかける。
アビも心配そうに押し黙った。
「わかりません。私は今すぐロールへ発ちます。後の事は頼みます」
いつも冷静なアルビンが焦っているのがわかる。
「アルビン様、僕も……」
言いかけたアビの耳もとで、アルビンは素早く囁いた。
「アビはシュールを気をつけていて下さい。私が戻るまで」
シュールが、神殿で意識を飛ばされそうになった事を言っているのだと、アビにもわかった。
躊躇しているアビをそのままに、アルビンは、あっという間に行ってしまった。
「何だよ、急に。慌ただしいな」
チチだけが、アルビンの焦りの原因を知っていた。あんなに大きな衝撃は今まで感じた事がない。ロールに、長に何かあったとしか思えない。アルビンにとって長は、長以上の存在だとチチは思う。生まれてからずっと長の家で長と共に生きて来たのだ。心配に決まっている。
「私達はアルビン様が戻るまで、出来ることをしましょう。そうするしかないんだから」
チチはあらぬ方を見て、独り言のように呟いた。そしてしばらく放心した後、立ち上がって居間を出てゆこうとした。
「どこ行くんだよ」
シュールが座ったまま声をかけると、チチは一瞬立ち止まってゆっくりと振り返る。
「長が心配なの。着替えて自分の部屋で祈るわ」
パタンと扉が閉まると静寂が訪れた。シュールも何も言わず、アビもじっとしていた。
だが、張り詰めた空気に耐えられなくなって、シュールはがばっと立ち上がった。
「おい、雪まつり見に行こうぜ」
「え? だって……」
「大丈夫だよ、ここにじっとしてればじいさんが無事って訳じゃないんだぜ」
「……うん」
「さ、じめじめしてねえで、さっさと行くぞ」
シュールはつい先程まで疲れ切っていたのを忘れたかのように、元気に服を脱ぎはじめた。堅苦しい騎士の正装を脱ぎ捨てて、裸のまま居間に続く寝室に入っていった。そしてあっという間にいつもの見なれた格好で出て来た。
「アビ、お前まだ着替えてないのか」
あきれ顔で言う。
「シュールが早すぎるんだよ」
アビは慌てて立ち上がった。アビの着替えは銀の騎士の居間には置いていい。来客用に用意してもらった部屋にあるのだ。
「僕、部屋に戻って着替えてくる。着替えたらここに来るよ」
「昼飯を街で食うんだから急げよ」
アビがバタバタと出ていってしまうと、一人ぽつんと残されたシュールは、なんとなく落ち着かない気持ちになり、部屋の中をうろうろと行ったり来たりしながら、ふと窓から見える中庭を見下ろした。雪まつりの日だというのに、相も変わらず騎士団は訓練に勤しんでいた。晴れたとはいえ三日前の雪はそこかしこに残っている。吐いた息が窓を曇らせた。
シュールはぶるっと身震いした。
震えの原因が寒さからなのか、嫌な予感からなのか、それはわからなかった。
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