オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語

銀の騎士続編

第6章~確信

オンライン小説~銀の騎士~剣と魔法のファンタジー物語

(4)

「……シュ……ール」

自分を呼ぶか細い声。今にも消え入りそうな。
しかしシュールにはハッキリと聞こえた。チチの声だった。

シュールは心地よい眠りから引きずり出され、頭が重かった。
寒い。それに身体中が痛い。

何度かまばたきをして目をあける。ここはどこだ。シュールは眉をひそめる。まわりには誰もいない。シュールは小さな、木で出来た小屋の中の、目の粗い羽目板の床に転がされていた。夜着のままだ。どおりで寒いと思った。 シュールは軽く頭を振った。
何か武器になるものはないか見回したが、何も持っておらず、小屋にも何もない。
一つだけある窓の外は薄暗いが、夜ではないらしい。シュールはフラフラと立ち上がって、窓とは反対側の壁にある扉をあけようとした。しかし鍵がかかっている。

「ちくしょう。これで閉じ込めているつもりかよ」
シュールは思いっきり扉を蹴飛ばした。シュールの肩の位置まで上がった右足が、扉の錠の辺りを蹴ると、扉はメキッという鋭い音をたてて壊れた。

表に出ると更なる寒さが襲って来た。だが、幸運な事に誰もいない。
シュールにはここがどこなのか薄々わかっていた。こんなに不気味で暗い森は他にない。
だが、出口はどっちだ?

上を見上げ太陽の位置を確かめようとしたが、鬱蒼とせり上がるように茂った木々に邪魔され、太陽を見つける事は出来なかった。
とにかくここを離れよう、そう思って用心深く進んで行く。小屋は他にもいくつかある。中には人がいるかもしれない。木々の陰に隠れつつ、人の踏み荒らしたあとを辿って行く。
と、前方に見覚えのあるうす桃色のマントがちらりと見えた。

心臓が飛び出しそうな程びっくりした。あれは確かにチチのマントだ。
チチも捕まったのか。さっき俺に助けを求めたのは本物のチチなのか!?
シュールは足音も気にせず、走り寄った。
大きな木の太い幹に、荒縄でぐるぐる巻きに括りつけられたチチの姿が目に飛び込んだ。

「くそっ! なんてこった」
シュールは拳を握りしめた。チチはうなだれている。マントのフードで顔が見えない。
だが、チチに違いない。

「囮のつもりか。なんてひどい事しやがるんだ」
シュールは誰にともなく悪態をつきながら走った。
やがてチチのそばまで来ると更にぎょっとした。
チチの手は縛られている為か土色に変色している。一瞬嫌な予感が胸を過った。

”まさか死んでいるんじゃ……”
怖かった。生まれてこの方、こんなに怖い思いをしたことはない。チチは死んでしまったかもしれない。それを確かめるのが怖くて全身が震えた。
恐る恐る近付いて触れてみる。
安心感にどっと汗が吹き出した。

”生きている”
だがチチは熱があるようだ。ぐずぐずしてはいられない。
シュールはチチの縄を解こうと縄目を探した。

だが、きつく結ばれた縄は容易にほどけそうもない。
しかも寒さと怒りと恐怖で指先が震え、思うように動かなかった。

”そうだ”

シュールはチチがいつも護身用に腰に下げていた短剣を思い出した。運がよければまだ持っているかも知れない。腰の辺りは指一本の間隔で縄が巻き付けられている。しかし探ってみるとチチの腰に短剣の手触りが発見出来た。これを取る為には、縄を思いきりずらさなければならない。そうする事でチチの身体に擦り傷が出来るのではないかと一瞬躊躇した。だが、ことは一刻を争う。チチの身体はどこもかしこも熱くなっていた。

「すまん」

シュールはえいっと縄を一気に下方にずらした。
チチの身体がビクッと動いた。が、意識は取り戻さない。
シュールは短剣を鞘から引き抜いて、縄を切った。バランスを失ったチチの身体が倒れこむ前に左手で支える。

「チチ、大丈夫か。誰があんたをこんな目にあわせた」
シュールはここで始めてチチの顔を覗き込んだ。
一瞬、何も考えられなくなった。
身体中の微細な血管が沸騰してくるようだ。小刻みに身体が震え出す。右手に握った短剣が妙な動きで踊った。手の震えを止める事が出来ない。

”誰がチチをこんな目に合わせやがった!!”

チチの顔は別人のようになっていた。右半分が紫色に腫れ上がっている。
そっと触れると熱を持っていた。
シュールはチチをなんとか起こして背におぶるつもりだったが、チチは意識を取り戻しそうもない。それどころか、たとえ取り戻したとしても背中に掴まる力は残っていないだろう。

「ちょっと苦しくても我慢しろよ」

シュールはチチが聞いているかのように呼びかけると、チチの身体を左肩に担ぎ上げた。楽な姿勢になるようにそっと抱いてやりたかったが、両手が塞がっていては何も出来ない。シュールはチチのお尻の下あたりを左腕全体でぎゅっと押さえて走り出した。

とにかくここを離れなければ。
はだしの足を小枝が切り裂いた。だが、そんな痛みは何でもない。チチの苦痛に比べたら。
シュールは女の子の顔に、こんな乱暴な振る舞いをする人間がいるなんて、とても信じられなかった。

”人間じゃねえ”
そう確信した。

だが誰のせいでチチがこんな目にあったのか、おぼろげながらわかっていた。
シュールはうっすらと昨晩の事を思い出しかけていた。
涙が滲んで来た。

「チチ、すぐにアルビンのところに連れて行く。きっとアルビンが元通りに治しくれる。だからがんばれ」

そう言ったつもりだったが、息が切れ切れになって実際言葉にはならなかった。

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